米国、日本、オーストラリア、インドの4カ国による協力体「クアッド(Quad)」が中国けん制に向けインド・太平洋地域から宇宙空間にまで協力の範囲を拡大する。

 米国のバイデン大統領をはじめとするクアッド4カ国首脳らは24日(現地時間)、ワシントンDCで行われた初めての首脳会議で「宇宙とサイバー上の技術に関する合意」を取り交わした。ロイター通信が報じた。日本の読売新聞も「共同声明には中国けん制に向けた人工衛星のデータ共有と、サイバー関連の政府高官による協議体の創設などを盛り込むことで事前に合意した」と伝えた。

 4カ国首脳らは「宇宙空間の持続的、安定的利用に向けた規範の策定」についてもクアッドが主導的な役割を果たすことで合意した。今年に入って中国とロシアが2030年代に月面に研究基地を共同建設することで合意したが、これによって米国中心のクアッドと中ロの対決が宇宙開発分野においても形成されつつあるようだ。

 クアッド首脳会議で合意した衛星データの共有について読売新聞は「気候変動対策を目的に、地球観測衛星で収集した画像などを4か国で共有し、気候変動のリスクの分析や、インド太平洋地域での災害の予測などに役立てる狙いがある」との見方を示した。一方で「中国と国境を接するインドが安全保障分野の協力強化に踏み込むことに、慎重な姿勢を示している。このため、事実上の偵察衛星の機能を持つ情報収集衛星のデータは、共有の対象とはしない」という。しかし地球観測衛星のデータ共有は長期的には中国けん制を目的とする軍事面での宇宙協力につながる可能性が高い。

 読売新聞は「クアッド4カ国は海洋データを集約して不審船探知などにつなげる『海洋状況把握(MDA)』の能力を、4か国で強化する方針も盛り込んだ」「衛星などを活用して協力を積み重ね、将来的には、中国の海洋進出の監視につなげる狙いも透けて見える」とも分析した。バイデン大統領主催で日本の菅義偉首相、オーストラリアのモリソン首相、インドのモディ首相が出席した今回のクアッド首脳会議は、2004年にインド洋における地震と津波対策での連携をきっかけに4カ国の協力が始まって以来、17年で初めて開催された対面での首脳会議だ。来月退任する菅首相はバイデン大統領の配慮により最後の海外訪問日程としてクアッド首脳会議に出席した。

 「クアッド4カ国が中国をけん制するには宇宙分野での協力も必要」との見方はこれまで米国内で指摘されてきた。米ヘリテージ財団のディーン・チェン上級研究員は2017年の報告書の中で「距離の制約でクアッドによる軍事行動は互いに遠い距離を置いて行われるだろう」と指摘した。チェン研究員は「情報を提供して伝える宇宙基盤システムがなければ、米軍は潜在的な敵に対する偵察、複数の部隊における情報共有、作戦の調整、最新兵器の操作などで困難が生じるはずだ」「オーストラリア、インド、日本の軍も同様だ」と警告していた。

 このような中で中国は2019年に無人探査機「嫦娥(じょうが)4号」の月面着陸にはじめて成功し、昨年は「嫦娥5号」によって月面の土壌などの採取にも成功するなど、積極的に宇宙への進出に乗り出しているが、これも新たな脅威として浮上している。米国家情報長官室(ODNI)は今年4月に米国を取り巻く国内外の脅威について分析・評価した年次報告書を発表し、その中で「中国が地球の低軌道に建設中の宇宙ステーションは、2022-24年の間に稼働開始が予想される」とした上で「中国は新たな月面探査を計画しており、月にロボット研究所を建設しようとしている」と警告した。

 この報告書の中で米情報当局は「中国人民解放軍は米国が情報面で優位にあることを弱めるため、衛星による偵察、衛星測位システム(PNT)、衛星通信など宇宙でのサービスを引き続き彼らの武器あるいは指揮統制システムに統合させるだろう」と予想した。すでに低軌道衛星を破壊するため地上からの衛星攻撃用ミサイルを展開している中国が「地上の衛星攻撃用レーザーで米国の低軌道衛星に設置された精密な宇宙工学センサーを損傷させるため、引き続き衛星攻撃用兵器を展開するだろう」とも予想している。

 このような予測がある中で米国の軍事専門ウェブサイト「リアル・クリア・ディフェンス」は今年4月「クアッドは必ず宇宙に向かわねばならない」と主張した。中国とロシアが急速に衛星攻撃用兵器を開発し、インドもこの種の兵器をテストしている状況で「脅威に対処する最も良い方法は、中国、ロシアに外交的な圧力を加え、インドとの協力を進めて行くことのできる国際的な協力の強化だ」という趣旨だった。さらに中国が月にロボットの研究基地建設を計画するなど、宇宙開発とその利用にも積極的に乗り出していることから「オーストラリア、日本、インド、米国が月についてもより緊密な協力を行うことを考慮すべき時だ」とも分析した。

 このような背景の下でクアッド首脳らによる宇宙協力が合意に至ったことで、「今後様々な次元での協力体制が築かれる可能性が高い」との見方が支配的だ。最終的には「有事に中国のミサイルやドローンを迎撃する偵察衛星を共同で運用する最初の一歩を踏み出した」との見方もある。長い目でみれば「軍事面での協力」にも自然につながるということだ。クアッド4カ国の中で安全保障分野の協力に最も消極的なインドも昨年10月、米国との外交・国防相による2プラス2会議後に署名した「地理空間協力のための基礎的な交換・協力協定(BECA)」を通じ、すでに米国の軍事衛星から情報を受け取ることに合意している。

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