北朝鮮の指令で忠清北道の労働界の人物らが2017年に結成した「自主統一忠北同志会」(以下『忠北同志会』)。北朝鮮はこの組織に「韓国国内の人物を取り込んで組織を拡張せよ」という指令を繰り返し送っていた。その規模はおよそ60人で、一味が取り込みを試みた対象には法曹界・政界・労働界などさまざまな人物が含まれていたことが9日に伝えられた。

 本紙が入手した「忠北同志会」一味の拘束令状請求書によると、北朝鮮は18年2月の指令文で「イ〇〇弁護士は統一戦線対象に選定し、事業を行ったらよいと思う」と指示した。北朝鮮の「統一戦線戦術」は、政党・社会団体など韓国国内の非共産主義勢力と連合して赤化統一を目標とする。

 北朝鮮が名前を挙げたイ〇〇弁護士は、忠清北道地域で知名度のある弁護士で、進歩系の裁判官の集まりである「ウリ法研究会」の創立メンバーでもある。文在寅(ムン・ジェイン)政権になって金命洙(キム・ミョンス)大法院長(最高裁長官に相当)などウリ法研究会出身の元職・現職裁判官らは、裁判所内にとどまらず韓国法曹界全般において主流へと浮上し、かなりの影響力を持っている。

 本紙の取材の結果、この一味は北朝鮮の指令を受けた後、実際にイ弁護士を数回にわたって訪ね、面会していた。一味はイ弁護士に「忠清北道清州の清原区梧倉邑でククスチプ(麺屋)を営みながら市民運動をしている活動家」と自己紹介し、相談を要請したという。イ弁護士は本紙の電話取材で「数年前に2、3回ほど判決文のようなものを持ってやって来て相談を要請したが、内容は正確には思い出せない」とし「私の業務分野と関連のない内容だったので注意して聞いておらず、適当に帰らせて、その後はやって来なかった」と語った。

 北朝鮮は、韓国国内の親北・進歩系の政界関係者の取り込みにも強い意欲を見せた。18年2月、北朝鮮は忠北同志会に「A氏の具体的な思想動向と経歴資料も一緒に送ってくれることを望む」という指令を下した。A氏は1992年のスパイ事件「朝鮮労働党中部地域党事件」で起訴され、懲役12年の刑が確定していたが、98年の8・15特赦で赦免された人物だ。その後、民主統合党(現在の与党『共に民主党』の前身)などで活動していたA氏は、2012年4月の総選挙に京畿道から無所属で出馬し、落選した。

 また北朝鮮は、17年5月に中国・北京で忠北同志会一味の一人と接触し、1カ月後に「B氏など、先般(北京で)会った際に頼んだ人物の資料もできるだけ早く集めて送れ」という指令を下した。B氏は統合進歩党(統進党)忠北道党副委員長を務め、「李石基(イ・ソクキ)釈放運動」を繰り広げていた人物だ。14年6月の地方選挙に統進党の市議会議員候補として清州で出馬し、落選した。

 忠北同志会が北朝鮮の指令を実行した状況も、一味が北朝鮮に送った報告文で明らかになった。19年7月に一味は、14年の地方選挙で統進党の市議会議員候補として登録していたC氏の携帯電話の番号と経歴、思想動向を資料にまとめ、北朝鮮側へ渡した。民衆党所属のD氏についての身元情報や思想動向も、指令により19年8月に北朝鮮側へ渡した。取り込み対象となった政治家らについて、北朝鮮は「取り込みは対象事業戦術をうまく打ち立ててこそ成功し得る」「人間的に尽くしてやり、義理を重んじて助けてやり、親しい友人関係を形成することを優先視せよ」など、具体的な工作方法を指示していた。

 さらに北朝鮮は、労働団体出身の忠北同志会一味に、忠北地域労働界の関係者取り込みをしつこく指示していた。一味の一人は2017年8月、北朝鮮に送る報告文で、自分の任務を「E氏など民労総(全国民主労働組合総連盟)元幹部らの連携、地域労働運動を会長様(金正恩〈キム・ジョンウン〉)の意図の通り展開するよう影響する」ことと明かした。その後18年2月、北朝鮮は「地域大企業など主要労働現場にアプローチし、傘下党組織を作り出すための基礎を固めろ」「議論するところのある看護師の協力者にアプローチし、看護師党組織をつくり出す準備事業をせよ」などの指令を下達した。

 北朝鮮の指令文と忠北同志会の報告文で言及された人物全てについて、実際に取り込みが試みられたかどうかは分かっていない。情報関連機関の関係者は「今後、捜査当局が確認すべき部分で、文在寅政権になって造成された南北融和の局面でこうした対南工作が行われたという点に注目する必要がある」と語った。

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