国際総合
欧米で広がる北京冬季五輪ボイコットの動き
東京オリンピックが終わると同時に中国が北京冬季オリンピックの宣伝に力を入れ始めた。北京冬季オリンピックは来年2月4-20日に北京と河北省張家口市で開催される。2008年の北京夏季オリンピック以来14年ぶりに中国で開催されるオリンピックだ。
中国共産党の機関誌・人民日報は9日付の1面記事5件のうち3件をオリンピック関連とするなど、開催まで6カ月を切った北京冬季オリンピックの宣伝に乗り出した。北京冬季オリンピックを成功させることで「『中華民族の偉大な復興』という中国の夢を実現するために奮闘しよう」と呼び掛けている。新華社通信も「北京冬季オリンピックは世界が注目する祝祭になるだろう」と強調した。
普段は反日記事ばかりを報じている環球時報の英語版は東京オリンピック閉会式が行われた8日付の社説で「東京オリンピックはコロナの深刻な感染が続く中で行われたが、(結果は)予想を上回った」と称賛し「東京オリンピックの成功は2022年の北京冬季オリンピックの成功に対するより大きな確信を与えた」と主張した。
しかし中国におけるこのような期待の高まりに反し、国際社会では「北京冬季オリンピックの成功は確信できない」との見方が根強い。現在全世界のコロナ感染者数は2億人を上回っており、感染対策の成功を誇っていた中国でも、先月南京空港からコロナが再び広がり始めて以来わずか20日で北京など12の省と直轄市がコロナ危険地域を宣布した。中国国内における1日の新規感染者数は100人ほどと他国よりは少ないが、状況が悪化した場合は中国における感染対策がしっかりと機能するかどうかへの懸念が高まるとみられる。
何よりも米国と欧州諸国は中国による新疆ウイグル自治区や香港での政策を批判し、政府代表団を北京冬季オリンピックに派遣しないよう呼び掛ける「外交的ボイコット(参加拒否)」の動きが広がっている。ソ連によるアフガニスタン侵攻で欧米諸国が1980年のモスクワ・オリンピックをボイコットして以来、国際的にこれほど激しい政治的反対を受けるオリンピックはなかった。
欧州では議会が北京冬季オリンピックのボイコットを求める動きの先頭に立っている。欧州連合(EU)議会は先月8日、中国政府が香港、チベット、新疆ウイグル自治区における人権問題への検証を可能にするなど事態が改善しない場合、政府代表団の出席を拒否するよう求める決議案を採択した。英国議会下院も先月15日、北京冬季オリンピックのボイコット決議案を与野党の合意で可決した。英国議会下院は決議案で「中国政府はウイグル族のイスラム教徒を集団虐殺している」とした上で「オリンピックという誇り高いスポーツイベントは大規模な残虐行為による犯罪で非難を受ける政府のある国で行われるべきではない」と主張した。EUと英国議会の決議に法的な拘束力はないが、「北京冬季オリンピックに協力するな」という強力な政治的メッセージとして受け取られている。
米国では今年5月に議会下院のペロシ議長が「北京冬季オリンピックの外交的ボイコット」を主張した。米議会の超党派グループ「中国問題に関する連邦議会・行政府委員会(CECC)」も先月27日にコカコーラ、VISA、AirB&B、インテル、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)など北京冬季オリンピックの公式スポンサーを呼んで公聴会を開いた。米民主党のジェフ・マークリー上院議員は北京冬季オリンピックのスポンサーとなっているこれらの米国企業に対し「中国政府による体制の宣伝を支援している」と非難した。
このような一連の動きは米国国内における中国に対する世論の悪化を象徴するものだ。インターネットメディア「アクシオス」は今月7日(現地時間)、「米国人のほぼ半数が北京冬季オリンピックの開催に反対している」と報じた。米国人2875人を対象としたある調査で「中国の人権問題を理由に中国は冬季オリンピックを開催すべきでないと考えるか」との質問に49%が「そうだ」と回答したという。「そうではない」との回答はわずか14%だった。
来年秋に中国共産党では習近平・国家主席の3期目が決まる見通しだ。そのため中国共産党にとって来年2月に開催される北京冬季オリンピックはそれ以前に開催される最大のイベントとなるため、その政治的な意味合いは非常に大きい。習主席は今年1月に国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話で会談し「北京冬季オリンピックは完璧な成功という名誉が得られることに自信を持っている」との考えを伝えた。2月にも自ら競技場などを視察し「重要な歴史的転換点に立った中国にとって北京冬季オリンピックは重大な指標になるだろう」と述べた。
中国政府は北京冬季オリンピック前後のオリンピック開催国である日本とフランスからオリンピック開催への支持をすでに取り付けている。さらに欧州議会や米国議会がボイコットを呼び掛けるたびに「オリンピック精神に反する政治的な動きだ」と非難し、反中世論を引っ張る議会や人権団体の関係者を制裁リストに加えてきた。しかし開催まで6カ月を切った今もなおボイコットを求める声がやむ兆しはない。フランス通信(AFP)は「欧米の政治家たちの間で北京冬季オリンピックのボイコットを求める動きが続いているが、これは中国共産党にとって大きな頭痛の種だ」と報じた。