寄稿
【寄稿】論文盗作の「ニセ博士」をなくしてこそ韓国は先進国になれる
韓国政府の重要ポストを担当するかもしれない候補者が「ニセ博士」だったことがわかり大きく報じられた。しかし我々は報じられた内容を問題視すること以上に、今回のようなニセ博士をどうすれば根本からなくせるかを考えねばならない。事実だけをみて嘆くのではなく、その原因を把握し、解決策を見いださねばならないということだ。
「ニセ博士」ということは、言い換えれば他人の論文を盗作したことを意味する。これは文献を盗む窃盗行為にほかならない。その当事者の研究倫理に問題があるという以前に、刑事犯として取り扱うべき事案だ。窃盗罪は倫理的にどうこう言うべき問題ではなく、文献を奪われた側の人物の意思さえも関係なく処罰されるからだ。
博士学位は大学教授にとっていわば免許証のようなものだが、ニセ博士は不正な手段で取得した運転免許証以上に社会に大きな害悪をもたらす。不正な手段で運転免許証の交付を受けることは法律で禁じているのに、不正な方法を使った博士学位の取得が放置されているのは大きな間違いだ。このような現状については誰もが深く反省し、必ず正していかねばならない。
博士学位の水準が低いことも大きな懸念材料だ。博士学位の水準はその国のレベルを評価する際に重要な意味を持つ。ニセ博士があふれかえっているため、「偽物ではない」と主張されてもそれを判断する博士の価値そのものが低いのだ。これでは「恥ずべき後進国」ではないか。韓国が先進国に飛躍する期待を無残にも踏みにじる暴挙を我々自らなくして行かねばならない。
ではどうすれば良いのだろうか。まず盗作に対しては処罰しなければならない。博士論文の盗作はそれ以外の盗作よりも一層厳しく処罰する必要がある。盗作したかどうかの判断を博士学位を与える大学に任せるのではなく、司法機関が判定し必要であれば起訴すべきだ。当事者に対しては窃盗罪、論文指導教授は窃盗ほう助罪に相当する処罰を行わねばならない。
指導教授が論文盗作を見抜くことができないこともある。レベルの高い論文を書かせる能力が足りないこともあるだろう。このような理由から意図しない形で被害者になることの方を防ぐべきだろうか。そうではない。無資格者に博士論文の指導ができないようにすること。こちらを根本的な解決策と考えねばならない。
ドイツでハビリタチオン(大学教授資格)という名称で定着している博士指導教授資格検証制度について、これが日本や中国など世界の多くの国で導入されていることをまずは知るべきだ。この制度を受け入れなかったのは建国の混乱の中で起こったミスだ。ある特定大学の教授だけに博士論文の指導を任せるべきではない。一般的に言われる大学のランクと教授の能力の間に相関関係はない。博士学位を与える権限をわずかな大学が独占すれば、その質は一層低下する。どの大学に所属していても、優れた能力と意欲のある教授は一定の検証を経て博士指導教授になれるようにしなければならない。善意の競争こそが発展をもたらすのだ。
優れた研究業績と卓越した研究能力が検証されてはじめて博士指導教授になれるようにすべきだ。博士指導教授になるための検証を申請する際には、その代表的な業績を教育部(省に相当)に提出させ、必要な場合は別の審査委員会を立ち上げれば審査は可能だが、これを大韓民国学術院に一括依頼するのも効率的な方法だ。
博士指導教授は指導する学生を選抜する権限を持たねばならない。博士指導教授がいない場合は当然のことながら博士課程の募集をさせてはならない。博士課程での講義や論文審査の担当は博士指導教授たちで協議するが、これは大学の範囲を越えて全国レベルで行うのが望ましい。そうすれば特定大学の覇権主義が消え去り、大学のランクをなくすきっかけとすることもできる。
ニセ博士をなくさなければまともな国になれない。博士学位のレベル向上を先進国となる必須の課題と認識しなければならない。学問の輸入国から輸出国に転換すべき時だ。今はそれに必要な特段の努力に取り組むべき重大な転機を迎えている。
趙東一(チョ・ドンイル)ソウル大学名誉教授