「超人的な力が出ているようだ」

 あふれる感情を抑えきれないレースだった。黄宣優(ファン・ソンウ、18)=ソウル体育孝行=が28日、東京五輪競泳男子100メートル自由形の準決勝で47秒56のアジア新記録を出した。中国の寧沢涛が2014年に自国選手権で出したこれまでの記録(47秒65)を0.09秒縮めた。前日夜に行われた予選で47秒97の韓国新記録を出してから約15時間後に0.41秒さらに記録を縮めたものだ。100分の1秒を競う短距離では異例の記録更新だ。

 準決勝に出場した16人のうち4位になった黄宣優は、韓国の選手としては初めて、またアジアの選手としては1956年メルボルン五輪の谷訯(たに あつし・7位)=日本=以来65年ぶりに五輪競泳100メートル自由形決勝(8人)に進出するという歴史を作った。

 黄宣優は「自分でも予想していなかった記録が出た。本当に満足している。気持ちがいい」「今、とても疲れているが、自分の中から超人的な力が出ているようだ」と笑った。黄宣優は前日午前の200メートル自由形決勝(7位)に出場、同日夕には50分間隔で100メートル自由形と800メートルリレーにも出場した。五輪に初めて挑む高校生選手には無理な日程だ。体が疲れて夜眠れないほどだったという。

 黄宣優は「午前2時ごろ寝たので、(今日の試合が)心配だったが、いい記録が出た。 100メートルは1回ターンすればいいので、200メートルより体力の負担が少ない」と語った。

 彼は準決勝第1組の第3レーンに割り当てられた。特別な作戦はなかった。ただ全力を尽くすという気持ちだった。すぐ隣の第4レーンにはケーレブ・ドレセル(24)=米国=がいた。2016年リオデジャネイロ五輪400メートルリレーとメドレーリレーで金メダルを取ったメンバーであり、2017年ブダペスト世界選手権(7冠)と2019年光州世界選手権(6冠)で金メダル13個をさらった世界的な選手だ。黄宣優が「同じ舞台で競争することができるという事実だけで光栄」と最高に評価している第一人者。普段、動画共有サイト「ユーチューブ」などで競泳関連の動画を見るのが趣味だという黄宣優は、特にドレセルの爆発的な力泳に感心していたとのことだ。

 はじめの50メートルまでで8人中6位(23秒17)だった黄宣優は、ターンをしてからスピードを上げた。右側だけで息継ぎをする彼の視野にリードしているドレセルなどライバルたちの姿が入った。80メートルぐらいを過ぎると、テレビ中継映像に1-3位で泳いでいるドレセル、アレサンドロ・ミレシ=イタリア=、マキシム・グルセ=フランス=のスピード(秒速)が表示されていた。

 しかし数秒後、グルセの代わりに黄宣優のレーンに太極旗(韓国国旗)とリアルタイムの秒速を知らせるグラフィックスが表示された。黄宣優が3位になったという意味だった。結局、ドレセル(47秒23)、ミレシ(47秒52)、黄宣優(47秒56)の順にタッチパッドにタッチした。

 後半50メートルだけを見れば、黄宣優(24秒39)が決勝進出選手8人の中で最も速かった。オーバーペースになってメダルを逃した200メートル自由形とは違い、100メートルでは思い通りに試合が行ったということだ。黄宣優は「ドレセルの隣でレースをしたことはとても有用だった」「体調管理をしっかりして、決勝では最高の記録を出せるよう頑張りたい」と誓った。

 100メートル自由形決勝は29日午前11時37分に行われる。1952年ヘルシンキ五輪で鈴木弘=日本=が2位になって以降、アジアでは誰も同種目で表彰台に立っていない。世界選手権では2015年カザン大会で1位になった寧沢涛(47秒84)が過去唯一のアジア出身入賞者だ。黄宣優は第6レーンでレースに臨む。

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