7月5日午後2時30分ごろ、ソウル市汝矣島の国会議事堂前で大韓児童虐待防止協会の記者会見が開かれた。参加者らは「監視カメラ(以下CCTV)の設置拒否、何を恐れているのか」「最低限の安全装置」といったプラカードを掲げていた。コン・ヘジョン協会長は「幼稚園にCCTVを設置する義務は、児童の権利と安全を守る手段だ」と述べた。「幼稚園でのCCTV設置義務化法案」を代表発議した国民の力のキム・ビョンウク議員の関連ブログには、現在1100件を超える書き込みが掲載されているが、父兄の書き込んだ賛成意見が大半を占めている。

 国民権益委員会が先月、国民1万4000人を対象に行った「手術室でのCCTV設置の義務化」に関するアンケート調査では、回答者の98%が「賛成」と回答した。「医療事故に関する証拠資料の収集」「代理手術やセクハラなど違法行為の監視」などのために必要だというのだ。一方、「患者情報の流出」「医療従事者の人権侵害」などの反対意見は2%にとどまった。

 社会のあちこちで「CCTVの設置」を求める声が高まっている。今年4月、ソウル市の漢江公園で大学生の死亡事件が発生した際も、真っ先に対策案として取り上げられたのが「CCTVの設置」だったほどだ。世論が高まりを見せると、ソウル市は年末までに追加で約240台を設置することを決めた。このほかにも現在、大統領府国民請願の掲示板には「葬儀場の香典箱の前」や「障害者特殊学校」などにCCTVを設置するよう求める書き込みが相次いでいる。失踪、窃盗、児童虐待など、問題の根本的原因は別にあるが、まずは手軽に実施できる「監視」を選んだというわけだ。今ではCCTVが韓国社会における「魔法の鍵」になったとの話が聞かれるほどだ。

 「CCTV設置論者」は、低コストで効率良く市民を保護することのできるのがCCTVだと主張する。2019年の上半期だけで、CCTVを通じて1万7079人の犯人を捕まえたという統計(共に民主党のイ・ジェジョン議員室の資料)もある。京畿大学犯罪心理学科のコン・ジョンシク教授は「CCTVは潜在的犯罪者に対して恐怖を与え、犯罪を諦めさせる効果もある」と補足する。

 こうした意見が大勢を占めるようになった背景には、韓国人の根強い不信が垣間見られる。3月に韓国行政研究院が発表した韓国国民の他人に対する信頼水準は、4点満点中1.9点にとどまった。互いを信じられないため、全てを記録して証拠として残そうと主張する声が上がっているのだ。プライバシーの侵害、人権侵害、情報流出などに対する懸念は後回しとなっている。保育園に務める保育士のAさん(26)は「誰かに見られているという思いから嫌な気分にもなるが、父兄に疑われても確実な証拠となるため、CCTVの設置に賛成する」と複雑な心境に触れた。成均館大学社会学科のク・ジョンウ教授は「現在の韓国は社会的信頼度が非常に低下している」とし「CCTVの設置を主張する側が支持されているのは、互いが信じられずに共同体意識が崩壊した韓国の状況をよく物語っている」と指摘した。

 コロナ防疫を名分にGPS(衛星利用測位システム)追跡、クレジットカードの使用内訳照会など、政府があまりにも多くのプライバシーを侵害するため、個人情報を保護しなければならないという市民意識がまひしている、と指摘する声もある。国民大学社会学科のチェ・ハンソプ教授は「公共施設にCCTVを設置するというのはどの国でもよく見られるが、手術室などにCCTVを設置しなければならないという主張は韓国以外の国では見られない」とし「信じられない人たちを監視した後、『悪い人』を見つけ出して罰を与えようとする欲望と怒りが反映されたようだ」と説明する。

 情報保護専門家たちは、CCTVで全ての問題を解決しようとする試みは警戒しなければならないと警鐘を鳴らす。高麗大学情報保護大学院のクォン・ホンヨン教授は「結局、CCTV設置を求める背景にある社会的不信を解消するのが先決」とし「社会的合意を通じて自律規制が可能かどうかをまずは検討し、CCTVは副作用を最低限に抑える範囲内で設置しなければならない」と話す。高麗大学のキム・スンジュ教授も「CCTVの設置、あるいは取り外しを主張するよりも、個人情報の保護という価値と公的な価値のバランスを保つべきだ」と主張した。

ホーム TOP