社会総合
「予算がない」との理由で6・25参戦勇士の薬代を支援できないという韓国政府
慶尚北道慶山市に住むチョ・ギュシクさん(90)は月に2回病院を訪れる。6・25参戦有功者のチョさんは戦争当時、銃弾がかすった後遺症でこれまでずっと腰と肩に痛みを抱えてきた。糖尿病と前立腺の痛みに加え、昨年は肺炎まで再発した。この老兵には毎月34万ウォン(約3万3000円)の「参戦名誉手当」が支給されているが、そのほとんどは薬代として使われる。チョさんは「全部で八つの薬を飲んでいるが、その費用は月30万ウォン(約3万円)以上かかる」と語った。
チョさんが国から薬代の支援を受けるには、全国に6カ所しかない報勲病院に行かねばならない。この報勲病院はソウル、仁川、大田、大邱、釜山、光州に1カ所ずつだ。この病院では参戦有功者には診療費の90%、薬剤費は最大で全額支援される。チョさんの自宅から最も近い大邱報勲病院まではバスで2時間、車でも1時間以上はかかるという。ほとんどが80-90代で移動も大変な参戦有功者にとって、これほど長い距離を通うのは現実的に難しい。チョさんは「腰もまともに伸ばせないのに、大邱まで行くなど到底考えられない」と語る。
その代わりにチョさんは国家報勲処が指定した全国421カ所の民間委託病院を利用している。全国各地にあるので比較的行きやすい。ただしこれらの病院では診療費については90%支援が受けられるが、薬代は例外だ。最終的にチョさんのように移動が大変な場合、薬代全額を自分で支払うしかない。参戦有功者法施行令には「委託病院を利用する場合、薬剤費用は除外する」と明記されている。チョさんは「名誉手当は全額を薬代に使うので、『名誉』という大義名分はずいぶん前に消え去った」とも述べた。
江原道江陵市に住む6・25参戦有功者のキム・ヨンホさん(90)も同じ事情を抱えている。キムさんは「疾患が一つ増えるたびに薬代は天井知らずで高くなる」「負担を感じているが、生きるために払うしかない」と語る。
韓国政府もこの問題を把握している。国民権益委員会は2019年に国家報勲処に対して制度の見直しを勧告したが、それから2年が過ぎても何も変わっていない。理由は「予算不足」だ。国家報勲処の関係者は「権益委員会から勧告を受けた2019年にはすでに次年度予算案が確定していたので反映できず、20年には予算案に反映して企画財政部(省に相当)に提出したが、最終予算案から外された」「参戦有功者の大変な事情は把握しているので、制度を改善するため努力している」とコメントした。制度の改善を勧告した国民権益委員会は「委託病院を利用するのは遠方に居住しているか高齢によって移動が大変な方たちで、いわば参戦有功者の中でもさらに弱い立場にあるケースだ」「引き続き状況を見守りつつ、勧告の実行を求めていきたい」との考えを示した。
問題解決が進まない間に毎年およそ2万人の参戦有功者が世を去っている。今年5月の時点で全国の参戦有功者は26万1360人で、その半分以上が75歳以上だ。市民団体「国家有功者を愛する集まり」のノ・ヨンファン代表は「有功者の声を代弁すべき国家報勲処は『努力中』という言葉を繰り返すだけだ」「薬代支援は参戦有功者への正当な礼遇ではなく、高齢者の訴え程度に転落してしまわないか心配だ」とコメントした。
先月国会でも現状を改善するための法案が提出された。法案を提出した議員グループの代表を務める保守系野党・国民の力のイ・マンヒ議員の事務所は「参戦有功者を礼遇するという基本的な認識を持つ国であれば、当然改善すべき問題だ」とした上で「企画財政部に予算を要求するなど、近いうちに必ず解決するよう努力したい」と述べた。
韓国報勲フォーラムの会長を務める嶺南工大のキム・テヨル教授は「米国、オーストラリア、台湾は国・地域の予算に報勲関連が占める割合が3%近くになるが、韓国は1.7%にすぎない」「報勲処に独自の予算権を与えるなど、権限を強化しなければ解決が難しい問題だ」と指摘した。キム教授はさらに「委託病院に薬代を支援するとしても、必要な予算は年間70億-110億ウォン(約6億9000-11億円)ほどと推定される」「福祉は揺り籠から墓場までだが、報勲は『戦争から死後まで』という考えに基づき、まずは構造的な問題から解決しなければ報勲の真の意味合いを失ってしまうだろう」とも警告した。