▲クライブ・ハミルトン著、キム・ヒジュ訳『中国の静かな侵攻』(世宗書籍刊)。500ページ、2万2000ウォン(約2160円)。日本題は『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』。

 中国は世界の支配を夢見ているのか。そうだとする書籍『中国の静かな侵攻』と、そうではない可能性が高いとする書籍『中国の領土紛争』という2冊の新刊が登場した。真実は、いささか陰謀論的な前者と一見純真そうな後者、その中間のどこかに存在するのだろう。

 米中貿易紛争に陰に隠れてしまっているが、オーストラリアも昨年から中国と本格的な貿易紛争を繰り広げている。中国はオーストラリア産のムギやワインに反ダンピング関税を課し、一時的にオーストラリア産牛肉の輸入を中止した。ロブスターの輸入も妨げた。理由は簡単だった。中国の湖北省武漢で最初に発生したコロナの起源について、オーストラリアが「国際調査をやろう」と主張したからだ。輸出全体の40%を中国に依存するオーストラリアが、ある種のオーストラリア版「THAAD(高高度防衛ミサイル)報復」に遭っているのだ。しかしオーストラリアは後に退かない。今年3月には中国をけん制する米国・日本・インド・オーストラリア4カ国の初の「クアッド」首脳会談まで開いた。経済を武器にして圧迫する中国に立ち向かっている。

 オーストラリアはもともと、中国に立ち向かう国ではなかった。オーストラリアの融和的対中政策の基調を変えたきっかけの一つが、本書『中国の静かな侵攻』だ。英国サセックス大学で経済学の博士号を取った、オーストラリアの中国専門家クライブ・ハミルトン教授は、本書で「中国共産党はおよそ30年にわたって組織的に影響力拡大戦略を追求してきた」と主張している。2017年、最初に本書を出すことになっていたオーストラリアの出版社は、中国の抗議を恐れて契約を破棄した。紆余(うよ)曲折の末に別の出版社から本を出したハミルトン教授は、このように語る。「オーストラリアは復活する中華の朝貢国になるだろうと悟った」。当時のオーストラリアは、香港独立を支持したという理由で大学生が学校側から停学処分を受け、中国の政治家が「元の時代の13-14世紀ごろ、中国の探検家がオーストラリアを発見した」と発言しても異議を唱えない国だった。

▲テイラー・フレイベル著、チャン・ソンジュン訳『中国の領土紛争』(キム・アンド・キム・ブックス刊)。544ページ、2万ウォン(約1960円)。日本題同じ。

 ハミルトン教授は、オーストラリアの政界・財界はもちろん学界にまで入り込んだ「チャイナ・マネー」を追跡する。中国の招商局グループは2014年、軍事基地と隣接するオーストラリアの石炭輸出港ニューカッスルの港湾工事を受注した。16年にはニューサウスウェールズ州の新築住宅の20%、ビクトリア州の新規住宅の13%を中国人が購入した。オーストラリアで活動する中国出身の実業家らは政界の大手スポンサーになり、主な政治家らに巨額の献金を惜しみなくばらまいて「中国の友」にした-と指摘する。ハミルトン教授は、ロバート・ホーク元首相の名を挙げ「10年以上にわたり中国企業の契約締結を助ける仕事に集中し、2000年代半ばには5000万豪ドル(現在のレートで約42億円)もの財産を持つ富豪になった」と説明した。

 中国は東北工程を思い起こさせる歴史歪曲(わいきょく)もためらわない。中国出身のオーストラリアの実業家、チャウ・チャック・ウィン(周沢栄)は「オーストラリア帝国軍(AIF)の人種多様性」研究のために資金を寄付した。その資金を受け取って出版された本は、冒頭でこんな主張を行っている。「1788年の最初の囚人移民船団には中国人も含まれていた」。だが著者は「移民船団に中国人はいなかった」とし「でたらめな主張を糸口にして、中国が次第に(オーストラリアに対する)領有権を主張するかもしれない、という想像も妄想ではないだろう」と記す。

 しかし、中国は平和的で領土的野心はない、という主張も続いている。マサチューセッツ工科大学(MIT)政治学科のテイラー・フレイベル教授が著した『中国の領土紛争』は、1949年の中国建国以来2008年まで、およそ60年間の領土紛争史を国際政治学的に分析した書籍だ。中国はこの時期、23件の領土紛争のうち17件を妥協を通して解決した。チベットに関しては緩衝地帯確保のため領土面で譲歩することもあった。武力挑発は台湾や南シナ海など、中国がかつて自分たちのものだったと考えている地域に局限していた。

 大部分の領土紛争が平和的に解決されたのだと安心できるだろうか。著者は、新しい韓国語版の序文で「中国はあらゆる側面で過去より国力が強くなり、より深刻な摩擦と葛藤も甘受できるようになった」とつづった。強くなった中国は米国・オーストラリア・韓国などを経済的に圧迫し、経済的侵攻を行っているというのが現実だ。

 この状況下で、ハミルトン教授は「『経済脅迫』を通して中国に経済的に依存する国から政治的譲歩を引き出した」と指摘する。韓国も直面したので分かる話だ。結局この2冊は、中国の野心は領土紛争よりも経済と文化の領域で現れる、ということを示している。また、中国は一段と相手にし難い国になるだろうという見方も一致している。

 ハミルトン教授は、韓国語版の序文に「オーストラリア政府は北京(中国共産党)のいやがらせに立ち向かったが、韓国の政治指導層は早々とおじけづき、『戦略的あいまいさ』という惰弱な態度を維持している」と記した。食べていかねばならないので実利のためには仕方ない、という考えも抱くが、彼は著書で覚醒を促す。「『中国がわれわれ(オーストラリアの)運命だ』という思考は、実のところ中国のおかげで生計を維持している人々や企業が誇張し、メディアがばらまいたものだ。われわれは自ら選択したときにのみ、中華世界で生きることになるだろう」。韓国はいつまで選択を先延ばしにできるだろうか。

ヤン・ジホ記者

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