自動車産業
韓国の倉庫に積み上げられたEV車の廃バッテリー…リサイクル法規すらなかった
5月12日、京畿道一山のある電気自動車(EV)廃バッテリー保管倉庫にて。8段の高さの棚におよそ320個の廃バッテリーが、ビニールに包まれた状態で積んであった。ここには、廃車になったEVから出る廃バッテリーが毎月10-20個ずつ運び込まれる。中国や欧州ではEVの廃バッテリーのリサイクル事業が本格的に進められているが、韓国ではEVの廃バッテリーが倉庫でほこりをかぶって積み上げられている。スマートフォン用のバッテリーは分解してリサイクルするが、EVの廃バッテリーはまだ安全性評価の基準のような規定が整っていないからだ。バッテリー業界の関係者は「EVの拡散に伴って世界的に廃バッテリーがあふれ出し、リサイクル市場も急成長するだろう」としつつ「韓国政府が産業化を急がなければ、EVバッテリー大国の韓国が廃バッテリー産業では遅れを取りかねない」と懸念した。
■放置される廃バッテリー
韓国国内のEV廃バッテリー倉庫は一山と済州テクノパーク、慶北テクノパークの3カ所にある。地方自治体が運営していたり、環境部(省に相当。以下同じ)が民間企業に委託して運営したりしている。EVの廃バッテリーは韓国政府に必ず返納しなければならない。新しい電気自動車を買う際、韓国政府と自治体から補助金が出ているからだ。各廃車場では、廃車の過程で出たバッテリーを自治体を通して倉庫に送る。今年4月末の時点で3カ所の倉庫に積み上げられたEV廃バッテリーは582個。だがEVの普及拡大に伴って排出される廃バッテリーの数も、2023年には5914個、26年には4万2092個、30年には10万7520個と急激に増えていき、累積42万2975個に達する見込みだ。韓国政府も、廃バッテリー急増に合わせて、今年下半期に韓国国内で新たに4カ所の倉庫を追加設置する予定だ。
EVには事務机並みの面積のバッテリーパックが入っている。バッテリーの寿命は10年ほどで、15万-20万キロ走ると容量が70%以下に落ち、走行距離も充電時間も短くなって自動車用としては寿命を迎える。だがESS(エネルギー貯蔵装置)やキャンプ用パワーバンク(携帯用バッテリー)、電気自転車や電気オートバイ、街灯のバッテリーなどとして再利用できる。性能がさらに落ちたり外部からの衝撃で破損したりした場合には分解し、輸入に依存しているリチウム、ニッケル、マンガン、銅、コバルトなど希少金属を抽出できる。
こうしたリサイクル事業をしようと思ったら、リサイクルに関する法規が整備されなければならない。大林大学の金必洙(キム・ピルス)教授は「電気自動車のバッテリーは小型バッテリーよりはるかにサイズが大きく、重たい上、危険な物質を多量に含んでいる」とし「数百個のリチウム・イオン・セルで構成されており、高い電圧のせいで感電や火災、爆発の可能性が高く、小型バッテリーとは次元が異なるリサイクル基準が必要」と語った。
環境部と産業通商資源部も2019年から、使用済みバッテリーの性能評価の方法や安全基準の整備のため研究を行っている。これと共に韓国政府は昨年末から現代自動車やLG化学、ヨンファ・テックなど5社に規制サンドボックス(一時的な規制猶予もしくは免除)を適用し、使用済みバッテリーでESSやキャンプ用バッテリーを作る事業の妥当性の実証を進めている。問題はスピードだ。バッテリー業界からは「廃バッテリーの評価方法や安全基準の整備は、これらの企業の実証特例が終わってから早くても2年後にならないとできない」という声が出ている。
■外国はバッテリー市場の先取り競争
これに対し各EV大国は、廃バッテリー市場の先取りに向けてスピードアップしている。世界のEV1000万台のうち450万台を保有している世界最大のEV市場、中国は、18年7月から北京・上海を含む17の地域で廃バッテリーのリサイクルに関する試験事業を始めた。地方ごとにバッテリーのリサイクルセンターを作り、バッテリーメーカー、中古車販売業者、廃棄物処理業者と共同で使用済みバッテリーの回収・再販売ができるシステムを構築した。浙江省、江西省、湖北省、湖南省、広東省ではそれぞれEV廃バッテリーの回収・リサイクル企業のリストを発表し、回収とリサイクルのシステムも作っている。ドイツの場合、フォルクスワーゲンが北部ニーダーザクセン州のザルツギッターに年間3600個の廃バッテリーをリサイクルできる工場をオープンした。またBMWはボッシュ、スウェーデンの電力会社と共同でESSの生産ラインを構築し、国内の電力網と連携する試験事業を行っている。日本の日産は既に16年から、電力会社と協力して廃バッテリーで家庭用ESSを作っている。
アン・ジュンホ記者