▲「防災の日」の25日午後、ソウル市西大門区南加佐洞の住宅地ではあちこちで違法駐車中の車が目についた。/コ・ウンホ記者

 先月11日午後1時13分、ソウル市広津区の消防署に119番通報が入った。消防署からわずか2分の距離にある多世帯住宅の4階から出火し火災が発生したという。現場に向かった消防車は火災現場までわずか120メートルのところでストップした。住宅地の狭い道を左折しなければならないのだが、角に1台の乗用車が駐車してあったからだ。消防車は左折を断念して70メートル直進し、次の角で左折したが、今度はその途中で5台の乗用車が止められていた。車幅が2.5メートルの消防車は駐車してあった車と接触しないようにおよそ200メートルをゆっくりと進んだ。影響で現場に到着するまで普段の2倍となる4分も時間がかかった。火災が発生した住宅は内部が全焼し、700万ウォン(約68万円)の被害が発生した。広津消防署の消防官は「消防車がたとえ数秒でも早く到着していれば、火の手を抑えることができたはずだった。非常に残念だ」と述べた。

 2017年に29人の犠牲者が出た忠清北道堤川市のスポーツセンター火災の際には火災発生直後の救助活動が遅れてしまったが、その原因は「不法駐停車」だった。車幅が大きい屈折はしご付き消防ポンプ車などは現場に最短距離で向かうことができず、500メートルを回り道した。また不法駐車の影響ではしご車を使うのに必要な7-8メートルの空間を確保できず時間を無駄にした。影響で不法駐車に対する批判世論が高まり、翌18年6月には消防車などの緊急出動の際には駐停車中の車を強制的に移動できる「強制処分」の条項が一部改正・施行された。ところがそれから3年近く過ぎたが、今も状況はほとんど変わっていないのだ。

 韓国消防庁が25日に明らかにしたところによると、全国の消防本部が実施した不法駐停車中の車両取り締まりによる摘発件数は昨年1万617件で、過去最多を記録した。2019年には3305件だったが、それが3倍以上へと一気に増えたのだ。この期間に徴収された過料などの額も1億5191万ウォン(約1471万400円)から5億3384万ウォン(約5170万900円)へと一気に跳ね上がった。消防庁の関係者は「消防車の道を空ける訓練や取り締まりが積極的に行われたことや、コロナ後に住宅地での駐車が増えたことも原因だろう」とコメントした。

 不法な駐停車の影響で消防車が動けなくなった場合、消防官たちは火災現場の数百メートル前から重さ30キロの装備を抱えて走っていかねばならない。ヘルメットや防火服などで22キロ、これに消防用のホースやスタンドパイプといった装備も合わせればこれくらいの重さになるという。

 現行の消防基本法には消防活動に妨害となる駐停車中の車両については除去や移動が可能な「強制処分」に関する条項があるが、2018年6月から今年3月までの2年9カ月間で実際にこれが施行されたケースは1件もなかったという。上記の消防庁関係者は「車が破損した場合は現場にいた消防官たちが訴訟や抗議を受けるなど負担を負うことになり、また消防車が破損し出動できなくなるケースも起こりかねないため、強制処分はできないようだ」と説明した。英国など海外では厳しい免責事項があるため、消防官は車を破損してでも積極的に消防活動を行うが、韓国ではそうはいかないということだ。

 現行法にも「緊急消防活動中に車が損傷した場合、不法駐停車中だった車は損失補償が受けられない」という条項がある。しかし現場では今も「強制処分」をためらうようだ。ソウル市内のある消防署関係者は「火災が発生した際、その時が緊急の状況にあったことをまずは立証しなければならないが、たまに煙だけを見て間違って通報されるケースもある。そのため現場に到着するまでは火災状況の正確な把握は難しく、やたらと強制処分するわけにはいかない」と語る。また別の消防官は「不法駐車中の車の間を通り、後から車が損傷したとの連絡が来た場合、上から『なぜそんな運転をしたのか』『その程度も自分で対処できないのか』といった叱責(しっせき)を受けることがある」と説明した。この消防官によると、事故が発生した場合は100万ウォン(約9万7000円)までは5-6人のチームのメンバーが少しずつ修理費を出し合い、100万ウォン以上の場合はメンバーと運転手がそれぞれ半分ずつ負担するという不文律があるという。

 又石大学消防防災学科のコン・ハソン教授は「火災現場での1-2分は人を助けられるかどうかが決まる時間だ」「出動して車を破壊した消防官にはインセンティブを与えるなど、その対応については大幅な見直しが必要だ」と指摘した。

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