寄稿
【寄稿】福島事故から10年、再び注目される原子力
2021年3月11日は、福島の原発事故が発生してから10年になる日だ。また4月26日は、史上最大の原発事故だったチェルノブイリ事故が発生してから35年になる日だ。二つの大事故の後に原発産業界でどのような変化があったか、振り返ってみるにふさわしい。
2011年の福島事故の直前まで、原発産業はチェルノブイリ事故後25年間の無事故でかなり信頼を回復し、ルネサンスを夢見ていた。1986年の時点で389基だった世界の原発は、福島事故直前の時点では441基になっていた。福島事故で原発産業は一時萎縮したが、総じて現状を維持してきたとみることができる。10年間で61基が閉鎖され、63基が竣工し、現在は443基になっている。原発先導諸国では廃炉が多かった反面、新たに原発を導入する国も相当数ある。現在でも19カ国で50基の原発が建設中だ。
過去10年の間に新たに原発を導入した国は、アラブ首長国連邦(UAE)をはじめベラルーシ、バングラデシュ、トルコなどだ。また米国をはじめ英国、アルゼンチン、イランなどが原発建設を再開した。とりわけ注目される地域は東欧だ。チェルノブイリ事故の最大の被害国であるベラルーシでは、昨年11月に最初の原発が商業発電に入り、現在では2つ目の原発の建設が進んでいる。
チェルノブイリ原発が位置するウクライナもまた、2基の原発を建設中だ。ポーランドは最初の原発の建設を進め、韓国が力を入れているチェコはもちろんハンガリー、ブルガリア、ルーマニアが追加で原発を建設しようとしている。35年前にチェルノブイリの事故が襲った東欧で、原発が広まっているというのは皮肉だ。しかし経済成長を切望する国で必要な電力を供給し、石炭やガスへの依存度を下げるためには、東欧諸国の選択は十分理解できる。
福島事故に最も近い東アジア地域はどうだろうか。韓半島を取り巻く中国、ロシア、日本を見ると、脱原発どころか原発拡大が繰り広げられている。中国は過去10年間で実に36基もの原発を建て、今も12基を建設している。英国の新規原発に参加したのはもちろんパキスタンにも輸出を行うなど、自国での建設を基盤として海外進出を拡大中だ。
ロシアは、福島事故で西側諸国の原発産業がもたつく間に、最大の原発輸出国へと浮上した。2018年のロシア原子力公社(ロスアトム)の発表によると、12カ国で30基を超える原発を提供、もしくは契約を進めており、事業価値は韓国ウォン換算で150兆ウォン(現在のレートで約14兆3000億円)に迫るという。福島事故の当事国である日本はどうか。少なくとも20%の原発発電比率を維持したいとして、原発再稼働を督励している。
アジア地域で真っ先に脱原発を推進した台湾は、脱原発から抜け出そうとしている。台湾は2018年の国民投票で、脱原発の根拠となっていた電気事業法を改正して脱原発条文を削除した。だが法改正にもかかわらず、民進党政権が脱原発にこだわっていることから、今年に2度目の国民投票を実施する。今回は、福島事故の影響で7年にわたり建設が中断している竜門原発の建設再開が対象だ。続けざまに脱原発政策を無効化しようとする台湾住民の試みは、台湾と似たエネルギー需給環境を持つ韓国にとって示唆するところが大きい。
福島事故後の10年間、世界の原発産業が現状維持を続けてきたとするなら、今後10年は原発産業にとってチャンスの時期だ。2020年代に入り、エネルギー転換の世界的な話題は断然「カーボンニュートラル」だ。カーボンニュートラルが要求されればされるほど、原発の必要性が浮き彫りになることは避けられない。米国では既に複数の州政府が、原発に対して再生エネルギーと同様のクリーンエネルギー補助金を支給している。
英国で原発の電気は風力よりも高い。それでも英国は、原発をカーボンニュートラルの核心エネルギー源として推進している。韓国の原発の競争力は技術的にも経済的にも卓越している。だから、こうした変化の時期において脱原発に執着してはならない。これ以上エネルギーをイデオロギーの物差しで見てはならず、実事求是(事実に基づいて真理を追究すること)の立場からエネルギー政策を立て直すべきだ。
チョン・ドンウク中央大学エネルギーシステム工学部教授