東京で知り合ったAさんは在日韓国人2世だ。日本で生まれ、事業を興して60年余り暮らしてきた。疑う余地もないほど日本語は完ぺきだ。文在寅(ムン・ジェイン)政権発足後、韓日間の「銃声のない戦争」が続くと、次のように語っていたことが今でも頭に残っている。「両国関係が最悪の状況に向かうと、『十五円五十銭(じゅうごえんごじっせん)』と発音してみる習慣がついた。私の発音が本当の日本人と同じか確かめてみるのだ」

 日本のお金で15円50銭という金額を意味する「じゅうごえんごじっせん」。この言葉の背景には、日本帝国時代の韓国人の生死がかかった悲しい歴史がある。1923年に関東大地震が発生して10万人以上が死亡した。阿鼻(あび)叫喚の混乱の中で、「朝鮮人が人を殺して井戸に毒を入れた」というデマが広がった。日本軍・自警団が狂気を帯びた目で駆け回った。韓国人らしき人に「十五円五十銭と言ってみろ」と怒鳴りつけた。つたない日本語で言うと、その場で「即決処分」した。6000人以上の韓国人に対する人種虐殺が歴史に記録されている。

 「まさかそんなことが再び起きるだろうか」と問い返すと、彼は真顔で言った。「一寸先も見えない状況が続けば、10年後に私のような在日たちの生活はどうなるかわからない」

 東京の会社に勤めている在日韓国人3世の女性Bさん。日本人と結婚して小学生の子どもがいる。韓日関係でいいニュースがなかなかない今日このごろ、子どもたちが「韓国系の母親」のせいで差別されるのではないかと心配だ。「しばらくの間しか(日本に)いないで帰る人たちにはよく分からないでしょう。いつも頭の片隅に不安を抱えて生きなければならない私たちの心情が…」

 2018年の徴用賠償判決に続き、今年初めの慰安婦賠償決定により、韓日関係は再び奈落の底に向かいつつある。今年、衆議院選挙を控えている自民党は、報復措置を公に要求している。両国間の感情を高ぶらせていた安倍政権による輸出規制が発動されたのはいつのことだっただろうか。2019年7月の参議院選挙20日前に電撃的に施行され、嫌韓ムードが広がったことを覚えている在日韓国人たちは多い。

 より所のない在日韓国人たちは少しずつ動揺している。同胞100万人を代表する在日本大韓民国民団(民団)中央本部団長が新年会で、「最近の状況は在日韓国人の生死がかかった問題」と言ったのは象徴的だ。民団は昨年、地方本部に石が飛んできて窓ガラスが割れた事件について有事の事態を懸念し、口外しないように言った。

 記者は、自身の日本語の発音をチェックするAさんの不安は杞憂(きゆう)だと思っている。日本の社会は、遠慮なく大規模な虐殺を行っていた野蛮な時代に再び戻らないだろう。問題は、韓国で日本を過度にたたけば、間違いなく日本で在日韓国人を苦しめるシステムが作動するということだ。このため、2015年の慰安婦合意を汚物の塊のように扱い、反日感情をあおってきた文大統領の就任以降、在日韓国人の不安指数は年々高まるばかりだ。

 その文大統領が年頭記者会見で、「慰安婦判決に困惑」「建設的・未来志向的な関係の復元」という発言で期待感を与えた。しかし、わずか2週間で、与党・共に民主党が再び反日感情を刺激した。今年4月7日のソウル市長・釜山市長補欠選挙を前に、野党が韓日海底トンネル建設を公約すると、「4・7補欠選挙も韓日戦になるのか」「親日DNA発動」といきなり日本を巻き込んだ。党指導部まで堂々と番組に出て反日をあおるとは、大統領が黙認しなければ不可能ではないだろうか。

 反日と嫌韓がコインの裏表のように動いているという事実を知っているなら、日本で暮らす同胞たちが再び危険にさらされるかもしれないということを認識しているなら、このような低質な政治はできないだろう。日本で大統領の年頭記者会見後に生まれた小さな期待は、雪が溶けるように早くも消えつつある。

東京=李河遠(イ・ハウォン)特派員

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