▲黄禹錫・元ソウル大学教授

 2005年、韓国は黄禹錫(ファン・ウソク)元ソウル大学教授の論文捏造(ねつぞう)論争で騒がしかった。当時、黄教授は国際学術誌「サイエンス」に、世界で初めて人間の胚性幹細胞を抽出したと発表し、科学界を驚かせた。だが最終的にデータ操作が発覚し、黄教授はソウル大学から罷免された。

 それから15年がたった2020年、ソウル大学の教授らが、博士課程の学生と共に『黄禹錫白書』を作ることで意気投合した。洪性旭(ホン・ソンウク)ソウル大学生命科学部教授(科学史および科学哲学協同課程)は「社会的に重要な事件が起きたら、研究者が集まって整理を行い、そこから得られる教訓を残さなければならない」とし「白書を通して黄禹錫事件を整理すれば、あのようなことが完全に消えはしなくとも、減りはするのではないか」と語った。

 3年前のことだった。黄禹錫事件の後も学内では大小の研究倫理上の問題が発生し続けていた。委員会を立ち上げて調査するにしても、個人情報を理由に結果はあまり共有されなかった。洪教授は「黄禹錫事件がきちんと整理されずに残っていったことが、問題の根幹ではないか」と考えた。同じ悩みを持つソウル大学の自然科学・医学の教授らが一堂に会した。洪教授は05年12月、あるメディアに「私は黄禹錫教授を信じたい。だが…」というタイトルの記事を寄稿したことがある。論文のデータを公開して捏造疑惑をすっきり解明するという趣旨の記事だった。その後、黄教授の支持者らから非難された。ひどいときには、周りから「つまらない文章を書いた」と責められた。

 白書作りを共に行う李俊昊(イ・ジュンホ)自然科学大学学長(58)と李賢淑(イ・ヒョンスク)生命科学部教授(53)も、05年当時、大学側に論文再調査を建議した若い教授らの一員だった。李賢淑教授は「一個人の問題だとか少数の過去のスキャンダルではなく、韓国の大学や社会のあちこちに隠れる不正についての告発」であって「誰か一人をののしる戦いでは絶対にない。真理探究の真実、その社会的責任を守ろうとするもの」と語った。そうして、白書委員会が作られた。

 容易ではなかった。大学側は、趣旨には共感したが手を差し伸べることはせず、白書作りに大きな進展はなかった。そんな中、扈源慶(ホ・ウォンギョン)ソウル大学医学科教授が、白書作りに使ってほしいと2000万ウォン(現在のレートで約188万円)を差し出した。洪教授の弟子である「科学史および科学哲学」専攻の博士課程の院生コさんは、20年10月から黄禹錫事件当時の関係者にインタビューを行い、基礎資料を集めている。コさんは21年まで白書を作った後、同じテーマで博士論文も書く計画だ。ソウル大学数学科を卒業したコさんは、医療倫理など社会的問題にも関心が強く、大学院は科学史および科学哲学専攻へと進んだ。修士論文も、後発医薬品の生物学的同等性に関する試験、いわゆる「BE試験」の倫理に関するものだった。

 白書は、21年の年末ごろに出版することを目標にしている。白書委員会に参加した教授らが白書作りを補助し、支援も行う計画だ。洪教授は「ソウル大学で事件が起き、黄禹錫・元教授が韓国国民の英雄だったころは大学側が事件をあおり、助長した面もある」とし「相反する側面を明らかにしつつ、きちんとした教訓を得られるように、黄禹錫事件の全てを扱うというよりはソウル大学と黄・元教授に集中して分析と展望を行いたい」と語った。

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