寄稿
【寄稿】北朝鮮の核問題、バイデンがトランプから学ぶべき三つのこと
バイデン大統領の就任とともに、北朝鮮の核問題は新たな局面を迎えることになる。これまで過去30年間、米大統領は4度変わった。そのたびに前任大統領の功罪を訴え、新たな政策を打ち立ててきたものの、北朝鮮は核開発をやめず、「完全な非核化」は失敗した。バイデン政権の外交安保司令塔には、オバマ政権当時の人物が任命された。予測可能で外交知識の高いチームが発足したのは幸いなことだ。しかし、北朝鮮の核問題に関する限り、オバマ政権も高い点数を得ることができなかった。
オバマ政権の8年間、北朝鮮は核実験を4度強行し、プルトニウムに続いて高濃縮ウランを材料とした原子爆弾の実験に成功した。核弾頭の小型化と長距離ミサイル技術を利用した人工衛星の軌道進入にも成功した。そのたびに制裁が科せられたが、技術の跳躍を抑止できる水準ではなく、「後の祭り」としての性格が強かった。60回にわたる短・中距離ミサイル実験には、糾弾以外にこれといった対応もしなかった。2月29日の合意崩壊後、ワシントン内の交渉派は姿を消した。大統領の政治資産を北朝鮮の核問題に投入するには期待できる効果があまりにも低過ぎるといった結論を下した。米国での北核問題レッドラインが消滅した状態で、北朝鮮はドアの鍵を閉め、核完成に専念した。オバマ政権最後の年の2016年、安保理制裁の画期的な強化に成功したものの、北朝鮮の核列車はアクセルを踏んだ後だった。水素爆弾と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験は、トランプ政権の1年目に行われたが、それはこれまでの開発の結果物と見るのが正しい。
オバマ元大統領はトランプ氏に「北核問題が最も緊急な安全保障懸案になるだろう」と引き継いだという。問題は十分予想できたにもかかわらず、時間をやり過ごしてしまったというのだ。その時間は取り返しがつかず、北朝鮮は核国家になってしまった。オバマ政権は決定的な過ちこそないものの、よくやったと言えるものもない。
トランプ政権は「大きな過ちがある一方で、よくやったと言えるものもある。最も悪かったのは、韓米同盟を弱体化させたことだ。北核問題に対処する上で最も重要な軸は韓米同盟だ。同盟弱体化の多くの部分は、韓国政府の南北関係への没入に起因するものの、トランプ大統領も同盟を揺さぶることに一役買った。二つ目の過ちは、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を正当化した点だ。2018年の一般教書演説で北朝鮮体制と人権問題を激しく非難しておきながら、シンガポール共同声明後は金委員長を「立派な指導者」と呼んだ。
功績と呼べることの一つ目は、核交渉で北朝鮮式の「段階的アプローチ」を拒否したことだ。寧辺から非核化を行い、補償を得てこそ経済的余裕が生まれ、核も開発し続けることができるが、首脳間の談判で失敗に終わった。ハノイから汽車に乗って帰る時、金正恩委員長の未来は暗かったはずだ。二つ目は、首脳外交中も制裁を維持し、政権期間中に制裁を追加したことだ。過去、北朝鮮は交渉が始まれば制裁が有名無実化するのを経験していたが、今回は違った。オバマとトランプの両政権の北核問題に対する通知表は、冷静に判断されなければならない。オバマ大統領を受け継ぐというバイデン氏の新チームが功績を上げるという保障はどこにもない。バイデン氏の新チームは、核実験に6度も成功した北朝鮮にイランとの核合意を援用し、段階的かつ多国的アプローチを好む、といった見通しが示されている。核活動を部分的に凍結し、主な制裁を解いたイラン・ディールを適用する場合、北朝鮮はより強力な核国家になる可能性がある。バイデン氏の新チームが「トップダウン」ではなく「ボトムアップ」交渉をするからといって手放しに喜ぶこともできない。北朝鮮には、公開された寧辺以外の重要核施設を交渉テーブルに載せることができる人物は金正恩委員長をおいてほかにいない。交渉担当者は、体制の運命が懸かった第1級の国家機密については口を開くこともできないだろう。多国的アプローチが6カ国協議の復活を意味するなら、北朝鮮に有利な時間を与えるだけだ。
バイデン氏の新チームが今一つしっくりこなくても、学ばなければならない点がもう一つある。バイデン氏は金正恩委員長を「やくざ」と呼んだ。体が小さくても、やくざは体の大きな模範生を恐れない。模範生は悪行や極端なことは避けるからだ。トランプ大統領は模範生ではなかった。トランプ大統領が「愛してる」と言っても、金正恩委員長は「愛を裏切れば、君はすぐに死ぬ」と言われていると受け取った。米国の軍事力が北朝鮮の100倍でも、いつでも使用できるという恐怖感を与えることができなければ、無用の長物だ。国際政治における問題解決能力は、往々にしてより大きな問題を起こすことができる力と意志に比例する。
黄浚局(ファン・ジュングク)元駐英大使・韓半島平和交渉本部長