対北ビラ禁止法(南北関係発展法改正)案に対する懸念が今や韓国国内だけでなく米国、英国をはじめとする自由民主陣営全体に急速に広がる中、米国務省は22日朝「北朝鮮への情報流入を増大することは、米国にとって優先順位が高い事案」との考えを示した。米国内から「この法律は北朝鮮に情報を伝える活動において深刻な障害になる」といった警告の声が相次ぐ中、米国政府も「ビラ禁止法に反対」の立場を明確にした形だ。韓国政府が国務会議(閣議に相当)でこの法律を議決した直後のことだった。韓国統一部(省に相当)は韓国に駐在する50の外国公館に説明用の資料を送付し、この法律の必要性を主張した。このように韓国政府・与党による「ビラ禁止法マイウェイ」はこの日も続いた。

 韓国政府はこの日、丁世均(チョン・セギュン)首相主催の国務会議を開き、午前10時40分ごろに対北ビラ禁止法を審議・議決した。丁首相はこの法律を巡る混乱を意識したかのように、統一部の李仁栄(イ・インヨン)長官に対し「さまざまな意見がある」とした上で、関係する団体などと緊密にやりとりするよう指示した。李長官は「法律が施行される前までに『ビラなどの散布規定解釈指針』を取りまとめ、法律の施行に支障が出ないようにする予定」と述べた。この法律は公布から3カ月後に発効する。

 米国務省の立場が公表されたのは午前11時20分だった。国務省報道官室の関係者は、対北ビラ禁止法に関する国務省の立場を問う米政府系ラジオ放送「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」の取材に「北朝鮮への情報流入を増大することは、米国にとって優先順位が高い事案」とした上で「北朝鮮住民が、政権によって統制された情報ではなく、事実に立脚した情報に触れることは非常に重要だ」との考えを示した。これまでは同じような質問に「コメントすることは特にない」としてきたが、韓国の国務会議で議決された日に反対の意向を明確にしたのだ。

 これに先立ち韓国与党・共に民主党はこの法律を12月2日に常任委員会、8日に法制司法委員会、14日に本会議と力ずくで押し通したが、これに対して米国議会下院のクリス・スミス議員(共和党)、マイケル・マッコール議員(共和党)、ジェラルド・コネリー議員(民主党)らは「民主主義の原則と人権を害する愚かな立法だ」「文在寅(ムン・ジェイン)大統領が署名する前に修正案について考えてほしい」と要請した。英国議会上院のデビッド・アルトン議員も「韓国政府はこの法律を再考すべきだ」と呼び掛けるなど、問題は徐々に大きくなっている。

 これに対して韓国政府・与党は国際社会の懸念や警告にいらだちを示しながら、連日のように世論戦に力を入れている。共に民主党所属で国会外交統一委員長を務める宋永吉(ソン・ヨンギル)議員はこの日、米国の北朝鮮専門メディア「38ノース」に送付した寄稿で「(米国の懸念は)大韓民国の民主的な手続きを毀損(きそん)するものだ」と主張した。これに先立ち共に民主党は今月20日「韓国の内政に対する横やり、干渉が度を過ぎている」と激しく反発し、また同党の李洛淵(イ・ナクヨン)代表は前日、この法律に賛成する北朝鮮との境界地域近くに住む住民を国会に招いて懇談会を開いた。その席に招かれた住民代表の中には、2年前に共に民主党から郡議員選挙に出馬した人物もいた。

 法律を所管する統一部はこの日、「この法律について説明する資料を先週から韓国に駐在する外国の大使館など50カ所以上に送付した」と明らかにした。この資料には「脱北者たちでさえ『ビラ散布は北朝鮮住民の知る権利を保障するものではない』と証言している」「ビラ散布が北朝鮮の人権を改善するという証拠はない」「この法律は金与正(キム・ヨジョン)下命法ではない」などと記載されているという。統一部は「ビラ禁止法に賛成する境界地域の住民の考え」と書かれた資料も随時配布している。

 専門家は「人権問題の常識に反する政府・与党の対応は納得しがたい」などの反応を示している。元米ニューヨーク州検事で韓東大学法学部のウォン・ジェチョン教授は「国際社会は北朝鮮住民の『情報を知る権利』を重視しており、対北ビラもそのための手段と考えられる。そのためビラ禁止法に懸念を示しているのだ」「政府・与党によるビラ禁止法強硬採決は国際社会における人権改善に向けた努力に反している」と指摘した。北朝鮮人権市民連合、北朝鮮民主化委員会、転換期正義ワーキンググループなど27の市民団体はこの日、対北ビラ禁止法に対する効力停止仮処分申請に加え、憲法に反するとして訴えを起こす考えを示した。

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