「ビアフラ(Biafra)を知っていますか?」

 晴れた日が続いていた9月のある週末、京畿道議政府市内の大聖堂で、韓国在住のビアフラ・コミュニティーに所属する青年の話を聞く機会があった。「ビアフラ」とは、ナイジェリアの部族の1つであるイボ族が1967年に分離・独立を宣言した国の名前だ。

 しかし、ハウサ人がビアフラに侵攻し(ナイジェリアはハウサ人とフラニ人、イボ族など数十の部族と36の州からなる連邦国家である)、ビアフラで発見された原油を狙っていたソ連がハウサ人を支援したことから内戦が発生、数多くの死傷者と難民が発生した。結局、ビアフラは1970年1月にナイジェリアに吸収された。それ以降、全世界にちらばったビアフラの人々はビアフラ独立のための活動を続けている。

 この日会ったビアフラ・コミュニティーのメンバーは、ナイジェリア政府の迫害を逃れて韓国に来て、いつのまにか10年が過ぎたという。韓国の出入国管理事務所では書類を要求したが、書類がないビアフラの人々は再びナイジェリアに送り返され、ナイジェリアに到着するなり殺されたという。あるビアフラの青年は「私たちは命を維持するため、ここにいる」と言った。

 難民の地位を認められるための孤独な道のりの中でも、ビアフラ・コミュニティーは韓国社会に力を添えるため努力している。新型コロナウイルスが広がると、手指消毒剤の寄付に乗り出し、地域の一人暮らし高齢者の家を掃除したり、参鶏湯(サムゲタン=丸鶏の中に漢方食材やもち米を詰めた韓国の滋養食)を振る舞ったりした。献血にも協力した。「これまで韓国の人々が私たちに示してくれた愛に報いるため、愛を分かち合いたかった」という理由からだ。

■購買力のある先進国市場の消費者たち、難民問題に関心高い

 法務部によると、2015年に5711件だった難民申請者数は2019年に1万5452件に達したという。年平均で40%以上の増加だ。しかし、国内で難民として認定された事例は2015年は105件、2019年は79件だ。韓国の昨年の難民認定率は0.4%で、経済協力開発機構(OECD)平均の24.8%に遠く及ばない。1人当たりの国内総生産(GDP)が3万ドル(約320万円)を超えた「世界6位の輸出大国、世界6大製造大国、世界10位圏の経済大国」である大韓民国の地位に似つかわしくない。

 実質的な利益を期待して難民問題に関心を持つケースは多くない。だが、長い目で見ると、期待できる実益がないわけではない。物理学者アルベルト・アインシュタイン、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ、「ピアノの詩人」ショパンなど人類の文明に多大な貢献をした天才たちのうち、難民家庭の出身者が少なくないことあらためて思い起こさせようというわけではない。

 今年春まで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表を務めていたダーク・ヘベカー氏は駐韓代表だった時、記者に「(難民が多く発生する)シリアと中央アフリカ共和国、マリに平和が来たら、住民は冷蔵庫やテレビ、家具に至るまですべてを新調しなければならないだろうから、韓国企業が今、これらの国々の難民を人道的な見地から支援すれば、彼らも韓国企業のことを忘れないだろう」と言った。

 同氏はまた、「情報技術(IT)分野で強みを持っている韓国企業が技術支援を通じて難民たちの教育を手助けすれば、関連企業のイメージアップに役立つだろう」とも言った。高いレベルの教育を受けた人々が増えれば戦後の復興が早まり、復興作業が順調に進めば韓国企業にとってもビジネスチャンスが増える可能性が高いということだ。

 有名グローバル企業の中に、難民支援をCSR(企業の社会的責任)活動として行う企業が少なくないのも、同様の理由からだろう。

 スウェーデンの「家具界の恐竜」イケアは2015年、発光ダイオード(LED)照明の販売収入の一部をUNHCRに寄付するというキャンペーン「難民に明るい人生を(Ikea’s Brighter Lives for Refugees)」を展開、約350億ウォン(約32億円)を集めた。イケアは昨年もヨーロッパ最大の通信会社ボーダフォンや、デンマークの玩具メーカー・レゴなどと共に難民の自給自足を支援するための職業訓練や自営業開始訓練費用として300億ウォン(約28億円)近い支援を約束している。

 日本では、グローバル・アパレルメーカーのユニクロが毎年3万着の衣類を世界中の難民キャンプに送るなど、難民支援に積極的だ。このほかにもマイクロソフト(MS)、ソニー、米国の宅配便会社UPS、カタール航空などがUNHCRと長期的な協力関係を構築している。

 ヨーロッパ、米国、カナダなど購買力がある先進国市場の消費者たちが難民問題に関心を持っていることを考えると、ブランドイメージ向上効果が高いと言えるアプローチだが、残念ながら韓国企業の社会貢献活動において難民支援はほとんど存在感がない。

■難民への手厚い支援は、国の格が上がったことを全世界に知らしめる道

 難民発生が頻繁なアフリカ大陸の未来市場としての魅力もいっそう膨らむ可能性が高い。アフリカの人口は約13億人、GDPは2兆6000億ドル(約274兆円)に達する。米ワシントン大学の研究チームがこのほど出した報告書では、2100年にはナイジェリアが中国を抜き、インドに次ぐ世界第2位の人口大国に浮上すると見通している。ナイジェリアは石油の埋蔵量が世界10位、天然ガスの埋蔵量が世界11位の資源大国でもある。

 55の加盟国を抱えるアフリカ連合(AU=Africa Union)は昨年5月、アフリカ大陸自由貿易協定(AfCFTA)を発効させた。アフリカ域内で商品・サービス取引を増進させ、資本・人材の自由な移動まで含めた貿易体制で、エリトリアを除くアフリカの54カ国が参加している。単一の貿易協定としては世界貿易機関(WTO)以降で世界最大規模だ。

 戦争と飢饉(ききん)、宗教と種族間の対立で苦しんでいる国にも平和は必ず訪れるだろう。そうなれば、その国の人々は苦しかった時代に助けてくれた人々のことを忘れないだろう。実益がなければ誰かを助けないというのは望ましい姿ではないが、そうした理由からでも、助けないよりは助けた方がいいということだ。

 韓国が日本による植民地支配時代や韓国戦争(朝鮮戦争)など、近現代史における数多くの手かせ・足かせを乗り越えて、経済大国に躍進できたのは、「難民として」世界各国をさすらい、祖国の困難な状況を伝えた我々の前の世代の人々や、それを温かく受け入れてくれた各国の人々の理解・配慮に負うところが大きかった。

 今こそ我々も助けなければならない。祖国で希望を失い、この地にやって来て旅人としてさすらう外国人を歓待することは、将来の世代のための「民間外交官」役を果たすことであると共に、我が国の格が高まったことを全世界に知らしめる道でもある。

イ・ヨンソン国際部長

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