裁判
元韓国軍捕虜への賠償に北資産の差し押さえ、裁判所は許可するも南北経済文化協力財団が異議申し立て
6・25戦争当時、北朝鮮に拉致され強制労働を強いられた元韓国軍捕虜たちが北朝鮮を相手取って損害賠償請求訴訟を起こし、裁判では韓国国内にある北朝鮮の財産によって賠償を命じる判決が出たが、これを保管している「南北経済文化協力財団(経文協)」の反発で手続きが遅延している。
元韓国軍捕虜のノ・サホンさん(91)とハン・ジェボクさん(86)が北朝鮮と金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長を訴えた損害賠償請求訴訟で、「(ノ氏とハン氏に)それぞれ2100万ウォン(約190万円)を支払え」と命じる判決が今年7月7日に出された。6・25戦争に参戦して捕虜となり、1953年から33カ月にわたり平安南道江東郡の炭鉱で強制労働を強いられたため、その慰謝料を受け取ることになったのだ。韓国の裁判所が、北朝鮮と金正恩氏の損害賠償責任を認めた最初の判決だった。
その後、7月30日に原告の弁護団は、経文協が北朝鮮に支払うことになっている著作権料について「債権差し押さえおよび取り立て命令」を申請した。経文協は朝鮮中央テレビの映像など、北朝鮮の著作権を使用した韓国国内の放送局などから北朝鮮の代理で著作権料を徴収し、これを北朝鮮に送金する団体だ。イム・ジョンソク元青瓦台(韓国大統領府)外交安保特別補佐官が代表を務めている。
ところが北朝鮮に対する制裁で送金が難しくなったため、経文協は著作権料を裁判所に供託しており、その額は20億ウォン(約1億8000万円)以上に上っている。弁護人団はこれによって韓国軍捕虜への慰謝料に充当したいとして裁判所に許可を求めたのだ。裁判所は5日後の8月4日にこれを受け入れた。
すると北朝鮮ではなく経文協が異議を申し立てた。「供託された著作権料を受け取る主体は朝鮮中央テレビや北朝鮮で発行された図書などの原著作者であり、北朝鮮ではない。そのため供託された著作権料で慰謝料を支払ってはならない」というのがその理由だ。異議申し立てを受け、ソウル中央地裁民事控訴部は問題の差し押さえ・取り立て命令を巡り改めて判断を行っている。韓国軍捕虜側の弁護人を務める法務法人セチャンのキム・ヒョン弁護士は「原著作者がそれぞれの権利を主張することが社会主義国家の北朝鮮で容認されるのか」「経文協は無理な論理によって賠償の手続きを遅延させている」と主張した。
キム弁護士はさらに「差し押さえ・取り立て命令を受けたとしても、経文協側が支払いを拒否すれば、結局は別の差し押さえ請求訴訟を通じて受け取るしかない」との理由で新たな訴訟が避けられないとしている。そうなった場合、元捕虜たちへの支払いには短くて6カ月、長ければ1年以上はさらにかかる見通しだ。
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