安倍晋三首相の辞任表明以降、自民党の派閥による合従連衡が本格化する中、菅義偉・官房長官大勢論が力を得ている。

 自民党の最大派閥で100人近い議員を率いる細田派は31日の夕方に緊急の会合を開き、今月14日に予定されている自民党総裁選挙で菅氏支持を決めた。二階俊博・幹事長率いる二階派(47人)と麻生副総理率いる麻生派(54人)も、従来の政策を継承するため菅氏に投票することを決めた。これとは別に30人以上の無派閥グループも菅氏に立候補を要請してきたことで、菅氏支持を表明している。

 このまま行けば総裁選挙に投票する国会議員394人のうち、菅氏が50%以上を確保する見通しだ。毎日新聞は54人を率いる竹下派も菅氏支持の方向で動いていると報じており、菅氏が当選する可能性が高いと言えるだろう。今回の総裁選挙は党員投票をせず、衆議院議員・参議院議員394人と広域自治体(都道府県)の代表141人の計535人の投票によって決まるとみられている。

 このような流れに対し、今年に入って次期首相の世論調査で不動の1位となっている石破茂・元自民党幹事長が強く反発している。2012年に自民党総裁選挙に出馬し、党員投票では安倍首相を抑えたものの、議員投票で逆転された石破氏は、今回の選挙も通常通り党員投票50%、国会議員投票50%で決めるべきと主張している。石破派のある議員は「次期総裁選挙で党員投票を除外するのはまさに密室政治だ」と反発している。石破氏を支持する議員らと地方の党員らも党員投票の実施を強く求めている。

 石破氏は安倍首相の辞任発表後、共同通信が行った「次期首相にふさわしい人物」を尋ねる世論調査でも34.3%で1位だった。2位の菅氏(14.3%)とは20ポイントの差が出るほど圧倒的だ。石破氏は一貫して「反安倍」路線を維持してきた。日本国民の間では、石破氏が首相となって日本社会を変えてほしいと望む世論が根強いと言えるだろう。しかし派閥間の密室交渉によって自民党総裁が決まり、さらに総裁が首相となる慣例は今回も続くとみられることから、石破氏はまたも涙をのむ可能性が高い。

 今年63歳の石破氏は鳥取県出身の2世議員だ。慶応大学卒業後、銀行員として働き、後に、鳥取県知事や自治大臣を歴任した父の死去を受け、故・田中角栄元首相の勧めで29歳で国会議員となった。

 11期連続当選中の石破氏は、小泉内閣で旧防衛庁長官として初めて入閣し、福田内閣では防衛大臣となった。外交安全保障分野を得意としており、太平洋戦争のA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社参拝には否定的だが、戦力保有禁止を定めた憲法改正には安倍首相以上に積極的だ。2012年と18年の自民党総裁選挙で「石破悪夢」に苦しんだ安倍首相が「石破は絶対に総裁になってはならない」との考えを明確にしていることも、石破氏にとっては障害だ。

 一方で総裁選挙に出馬の意向を示していた岸田文雄・自民党政調会長は1日、首相官邸で安倍首相に会って支持を求め、またテレビ番組にも出演し政権構想を語ってきた。

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