南北関係
「野郎、骨髄、低脳」…悪女に豹変した金与正
険悪な表現に満ちた北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長による4日の談話は、およそ3カ月ぶりに改めて出たものだ。3カ月前に青瓦台(韓国大統領府)を「ばかみたい」「低脳な思考方式に驚愕(きょうがく)する」と侮辱した金与正氏だが、この日も脱北者らに対し「雑種犬」「人間のくず」、さらに「南朝鮮当局者たち」に対しては「見て見ぬふりかあおり立てる野郎」「同族への敵意が骨髄に満ちている」などの言葉を並べ立てた。韓国統一部(省に相当)OBは「2018年に数々の対南接触を通じ『親近感のあるイメージ』を積み上げてきた金与正氏の言葉を通じ、『南朝鮮の引き締め』効果を最大限に高めようとしている」との見方を示した。
金与正氏は、北朝鮮の最高位にある人物の中では韓国政府関係者と最も近い人物とされてきた。2018年2月の平昌冬季オリンピック当時、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の特使として来韓し、2泊3日の滞在期間中に文在寅(ムン・ジェイン)大統領と4回会ったのをはじめとして、当時のイム・ジョンソク青瓦台秘書室長など政権の実力者らとも交流した。金与正氏は平昌オリンピック後に本格化した南北・米朝対話では常に姿を現していた。
昨年の「ハノイ・ノー・ディール(米朝首脳会談決裂)」の影響で南北関係が凍り付いた中でも、故・金大中(キム・デジュン)元大統領夫人の李姫鎬(イ・ヒホ)氏が死去した際、金正恩氏からの弔意文と弔花を韓国側に贈るため板門店にやって来た。国策研究所の関係者は「ソフトなイメージから悪女に突如変わったのは、おそらく意図的だ」とした上で「北朝鮮が使ってきた典型的な『対南操縦術』の延長線上にある」との見方を示した。
対北朝鮮制裁やコロナ事態の長期化により、内外で困難な状況に追い込まれた金正恩氏が、本格的な「血族統治」を始めたことで、金与正氏の対南談話が増えたとの見方もある。金与正氏は今年4月に開催された労働党政治局会議では1年ぶりに政治局候補委員に復帰し、権力ナンバー2の地位を固めたとの評価を受けている。情報機関の元関係者は「首領である金正恩氏の口から非難声明を出すのは権威に負担となるので、金与正氏が悪役を引き受けて兄と役割分担をしているようだ」とコメントした。
今回の談話を根拠に「金与正氏は対南・対米問題を総括している」との見方も説得力をもって語られている。今回の談話に先立ち、金与正氏は今年3月にも自らの名義で談話を発表しており、その中で米国のトランプ大統領からの親書について意見を表明した。自由民主研究院のユ・ドンヨル院長は「金与正氏は金正恩氏の承認を受け、対南事業を直接指導する立場を内外に誇示している」と指摘した。
金与正氏の役割が過去の故・金日成(キム・イルソン)主席の弟の金英柱(キム・ヨンジュ)氏の立場を連想させるとの見方もある。金英注氏は労働党の要職に当たる組織指導部長を務め、1972年の7・4南北共同声明発表の際には金日成主席の代理として署名を行い、複数回にわたり韓国を非難する声明を発表するなど、対南事業にも深く関与していた。
キム・ミョンソン記者