中国では20代の農村出身労働者(農民工)の青年が金銭のために自分の腎臓を売るに至った過程を中国紙、新京報が今月7日、追跡報道で伝えた。青年は自分の腎臓を売るため、友人からバス運賃を借り、5日間で2500キロメートルを移動した。腎臓を売る代価は4万9000元(約74万円)だった。

 李瑞さん(23・仮名)は中国の典型的な農民工の家庭の一員だ。四川省宜賓市が故郷だが、5歳の時に両親の出稼ぎに伴い、故郷から2000キロメートル離れた浙江省嘉興市に移住した。父親は瓦工場、母親は刺しゅう工場で働いたが、月収は数千元程度だった。李さん自身も14年に中学校を卒業し、衣類工場、飲食店、カラオケ店などで働いた。

 2018年に故郷の宜賓に戻った李さんは中古車販売店で働き、月4000元を稼いだ。中古車販売店では李さんのつてでいとこも働き始めたが、いとこは買い取った車を勝手に売り払い、現金5万元を持って雲隠れしたため、李さんはその借金も背負わなければならなくなった。李さんはソーシャルメディアに「すぐにカネを稼げる仕事は何か」と書き込んだ。すると、誰かが「腎臓を売るのが手っ取り早い」と答えた。10万-20万元を受け取れるという話だった。

 2-3日後、李さんにソーシャルメディアで友達申請があった。腎臓を売れば、4万5000元を受け取れ、買い手から別途礼金も受け取れるとのことだった。李さんに接近したのは臓器ブローカーの肖平容疑者(29・仮名)だった。肖容疑者もまた農民工で、カネが必要で臓器ブローカーになった。警察に逮捕された肖容疑者は、臓器を売る人を探す報酬として、1万5000元を受け取ったと供述した。

 腎臓を売れば10万元以上になると聞いていた李さんは「そんなに安いはずはないだろう」とブローカーに尋ねたが、返ってきた答えは「それはみんな詐欺だ」というものだった。そして、ブローカーからメッセージで「売るのか売らないのか」と促された李さんは「売る」と答えたという。

 18年11月中旬、李さんはブローカーの指示で宜賓から湖北省武漢市へと移動した。バス運賃がなかったため、友人から200元を借りた。武漢の宿泊先に着くと、別の若者がいた。若者は江西省出身だで腎臓を売るために来たが、買い手が見つからず、もう2-3カ月そこに泊まっているということだった。

 李さんは再びブローカーから電話を受け、列車とバスを乗り継ぎ、山東省済南市まで移動した。そこで採血とさまざまな検査を受け、今度は河北省ケイ台市(ケイは刑のつくりがおおざと)新河県に移動した。李さんが宜賓から移動した距離は2500キロメートルに及んだ。

 新河県に到着した当日夕、李さんは黒い眼帯を着用させられ、車でとある空き家に到着した。そこは違法な腎臓摘出・移植手術が行われる場所だった。山東省、湖北省から来た医師と看護師が李さんの腎臓を別の患者に移植した。李さんは病院に行けないため、空き家で体の回復を待たねばならなかった。

 目を覚ますと、李さんのそばには100元札の束が入った赤いビニール袋が置かれていたという。礼金の4000元を含め、4万9000元が入っていた。李さんはそこに7日間滞在した。食事には白米とスープ、野菜、饅頭(マントウ、蒸しパン)が出たという。

 李さんは来た道をたどり、宜賓に戻った。李さんはいとこが残した債務を返済しようとしたが、中古車販売店の社長は受け取らなかった。それが腎臓を売って得たカネだと知ったからだ。李さんは1万5000元を姉に渡し、外地で働く母親の生活費と治療費の足しにするよう告げた。母親には真実を秘密にしてほしいと言った。残った約3万元は貯金した。

 李さんは昨年2月、浙江省に戻り紙箱工場で働き始めたが、仕事中に倒れた。医師は腎臓が一つしかないので、徹夜の仕事や激しい運動はできないと告げた。

 新河県の公安当局は昨年末、19年8月から11月にかけ、李さんの腎臓をはじめ、9回の違法な腎臓移植手術を行っていた組織の14人を逮捕した。うち5人は懲役4-7年の実刑を言い渡され、9人は執行猶予となった。

 後から事情を知った李さんの父親は息子とともに追加賠償を求めている。しかし、弁護士は「自発的に行ったことなので賠償は難しい」と話した。李さんは4万9000元を受け取ったが、臓器密売組織はそれを55万-60万元で売っていたという。

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