▲パク・ジョンヒョン元CIA分析官の著書『BECOMING KIM JONG UN』。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は自分のことを「ジョン・F・ケネディ米大統領」だと考え、李雪主(リ・ソルジュ)夫人はケネディ大統領の夫人ジャッキーさんのように洗練されていて教養のある女性になるように「grooming」(グルーミング)したという説が唱えられている。グルーミングとは、人を特定の目的のために訓練したり、ペットをきちんと管理して手なずけて育てたりするという意味の英語の表現だ。

 米中央情報局(CIA)の北朝鮮関連アナリスト(分析官)だったパク・ジョンヒョン・ブルッキングス研究所韓国上級フェローは28日(現地時間)に出版される著書『BECOMING KIM JONG UN:北朝鮮の謎の若い独裁者に関するある元CIA要員の洞察』で、このような見方を明らかにした。

 パク・ジョンヒョン氏は著書で、「金正恩委員長は自分のことを若いころのケネディだと信じ、独自の『キャメロット』(伝説でアーサー王が統治した王国の首都・宮廷)を建てて暮らしている状態だ」と書いている。名門一族出身のケネディは43歳だった1960年の大統領選挙でニクソン共和党候補を抑え、米国最年少で当選した。ケネディは大統領選挙遊説時、米国の方がソ連よりも核兵器開発競争で遅れを取っていると言い、「ミサイル格差」を埋めようと強い軍事力を強調した。また、「オハイオ州で敗北した候補は大統領選で当選できない」という、いわゆる「オハイオ・ジンクス」を破った唯一の大統領でもある。

 これは、金正日(キム・ジョンイル)総書記の4人目の妻で、北朝鮮で差別される帰還在日朝鮮人・高英姫(コ・ヨンヒ)夫人の息子である金正恩委員長が、複数のライバルを破って後継者となったことと似ている面があるという分析だ。金正恩委員長は国際社会の制裁を受けながらも、核・ミサイルなど非対称戦略兵器開発によって韓国に対し軍事的に優位に立とうとしているとの指摘もある。ただし、ケネディは大統領就任から約2年10カ月後の1963年11月22日に暗殺されたが、金正恩委員長は若すぎて権力掌握が容易でないだろうと懸念されたものの、2011年の最高指導者就任から数年たった今も政権を維持している。だが、金正恩委員長は今月15日の太陽節(祖父・金日成〈キム・イルソン〉主席の生誕記念日)行事に異例なことに出席せず、2週間以上、公の場に姿を見せていないため、「健康異常説」が浮上している。

 パク・ジョンヒョン氏は「金正恩委員長は李雪主夫人を、欠点がなく、マナーが良くてファッショナブルな衣装で人気のあった米国のファースト・レディー(大統領夫人)ジャッキーさん(ケネディ大統領夫人)のようになるよう育てた」としている。事実、李雪主夫人は公の場によく高級ブランド製品を着用して現れて話題を集めた。クリスチャン・ディオールのクラッチバッグやモバードの腕時計を身につけていたこともある。金正恩委員長と親交があり、数回訪朝したことがある米プロバスケットボール(NBA)の元選手デニス・ロッドマン氏も2014年、「李雪主夫人はグッチとヴェルサーチが好きで、服をよく着ている」と語った。

 金正恩委員長が遊園地や豪華リゾート施設建設に情熱を注いでいるのも、観光収入拡大だけが目的なのではなく、数十万人の北朝鮮住民が強制収容所に閉じ込められたという「真実」を「代案現実・拡張現実」(alternative reality)に変えようとする試みだとパク・ジョンヒョン氏は分析した。「北朝鮮の住民は抑圧されて貧しい生活をしている」という「真実」よりも、「北朝鮮にはスイスのようなスキー場もあり、韓国より優れた温泉施設やリゾート施設がある」という「代案現実」の方に視線や関心を向けようとする宣伝術だ。

 米コロンビア大学で歴史学の博士号を取ったパク・ジョンヒョン氏は、ハンター大学で教べんを執った後、2009年にCIAに入った。2014年まで東アジア・太平洋担当上級アナリストとして情報収集に関する研究を担当した。2011年にはホワイトハウスで自ら懸案事項をブリーフィングした。2014年から16年まで米国国内の情報・捜査機関の総監督をする米国家情報長官(DNI)の下で東アジア担当副情報官を務めた。2017年にブルッキングス研究所で上級フェローに任命されるまではCIAの東アジア太平洋ミッションセンター局長として勤務した。同氏は上級フェローを務めながらCIA、国家情報院など各国情報機関の対北朝鮮担当者と会い、各種情報や分析データを共有しているとのことだ。

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