社説
【社説】国際人権規範違反で被疑者扱いされる大韓民国
北朝鮮の船員二人が亡命の意思を表明したにもかかわらず韓国政府が強制送還したことを巡り、国連人権高等弁務官事務所は「二人が拷問や処刑に遭う深刻な危険に直面することを懸念する」という見解を明らかにした。今月末に訪韓を予定している国連の北朝鮮人権特別報告官は「今後取るべき措置について、関連国政府と接触しているところ」と明かした。関連国政府とは言うまでもなく韓国政府を指し、既に連絡が行われているという。人権団体のアムネスティ・インターナショナルは「韓国政府が国連の拷問等禁止条約の強制送還禁止原則を守らなかった」として、「今回の事件を国際人権規範への違反と規定する」とコメントした。韓国が、国際社会の普遍的人権保護原則に背いた被疑者として追われ、調査まで受けることになったのだ。数十年前の軍事政権時代に受けてきた蔑みを、「人権弁護士」出身大統領の時代になって再び浴びることになったのだ。
韓国政府は、北朝鮮の船員が同僚乗組員十六人を殺害したので追放したと発表した。このような重犯罪者は法律上の保護対象ではない上に、韓国社会に受け入れた場合、国民の生命や安全にとって脅威になるおそれがある、というのだ。こうした韓国政府の立場に同意する国民も少なくないだろう。自分たちと同じ船に乗って3カ月以上生活してきた同僚を十人以上も殺害した者たちまで人権を保護すべきなのか、という思いを抱くのも事実だ。しかし殺人を犯した凶悪犯であろうとも、法に基づく裁判を通して処罰しなければならないというのが文明社会の良識だ。迫害の恐怖が存在する場所へ無理に送ってはならない、という強制送還禁止原則が国際社会の規範として位置付けられている。北朝鮮のような国へ船員らを送り返すのは、裁判なしに拷問され、殺されるのと変わらないからだ。
国際機関や人権団体が正面切って韓国を批判する上で、今回の事態を巡る韓国政府のあやしげな行動もその一因となったことだろう。韓国政府は、北朝鮮船を拿捕(だほ)した事実そのものを内密にして、船員の追放手続きが終わってからようやく公開した。しかも、北朝鮮の送還要請すらなかったという。統一部(省に相当)の長官は、北朝鮮の船員らの強制送還を正当化するため、彼らに亡命の意思がなかったかのようにうそまでついた。
韓国政府は今年、北朝鮮人権決議案の共同提案国から外れた。2008年以降昨年まで11年にわたりずっと参加してきた慣例を破った理由については、察しが付く。決議案が、北朝鮮の人権状況について「最も責任ある者」に対する適切な措置を取るよう勧告している部分が引っ掛かったからだろう。北朝鮮の人権状況について最も責任ある者とは、金正恩(キム・ジョンウン)だ。韓国政府は、2016年に制定した北朝鮮人権法で定めている北朝鮮人権財団の設立や北朝鮮人権国際協力大使の任命も、政権発足から2年半が過ぎようというのに実行していない。
これら全ては、今月釜山で開かれるASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議で「金正恩ショー」をもう一度やってみたいという、糸のように細い期待のせいだという。この先、金正恩の戦略に基づいて、いつでもショーは再演できる。その「戦略」とは、韓半島が核の恐怖から解放される道ではなく、その反対で、北朝鮮住民が人間らしく生きることができる道ではなく、その反対だ。