7月4日に日本が韓国に対し、半導体・ディスプレーの重要素材であるフッ化水素、フッ化ポリイミド、フォトレジストの輸出規制に踏み切った。韓国の産業界全体が驚いた。当時日本が刀を抜けば致命的な影響を受ける分野として挙げられたのがスマートフォンや電気自動車(EV)に使われるリチウムイオン電池だった。韓国はLG化学、サムスンSDIが世界のEV用リチウムイオン電池市場で4位、6位を占めるバッテリー強国だが、実は日本製の重要部品・素材がなければ、生産ラインを止めざるを得なくなるかもしれない立場にあるからだ。

 日本による輸出規制100日目を控えた9日、日本人で24人目となる科学分野のノーベル賞の受賞者がリチウムイオン電池分野から生まれた。旭化成名誉フェローの吉野彰氏(71)だ。日本は素材・部品・設備分野では7回目の受賞だ。吉野氏受賞の知らせは韓国産業界が歩むべき「克日」の道がまだ遠い厳しい現実を改めて知らしめるもので、つらいニュースだった。

 日本はリチウムイオン電池の重要素材分野で世界最強の陣容を率いている。吉野氏が属する旭化成はバッテリー分離膜で世界首位だ。電気を発生させる陽極材料と陰極材料を分離し、リチウムイオンだけを移動させるようにする分離膜がしっかりしていなければ、バッテリーは爆発しかねない。バッテリー容量を左右する陽極材料は日亜化学工業、陰極材料は日立化成、住友化学が世界最強だ。特にバッテリーパウチ(アルミニウムのフォイルでできたバッテリー外装材)はLG化学、サムスンSDI、SKイノベーションなど韓国のバッテリー大手3社が全量を日本から輸入している。

 韓国の専門家は「韓国は日本製の化学素材の90%を国産化したが、重要部分の10%はまだ作ることができずにいる。一部の素材・部品の格差は20年に達する」と述べた。韓国科学技術院(KAIST)化学科の金相栗(キム・サンユル)教授は「基礎科学の実力がなければ、まねはできるが、高品質を実現することは難しいのが素材・部品分野だ。少なくとも10-20年の基礎研究が先に必要な中核技術での格差は短期的な大規模投資で埋めることは難しい」と指摘した。

 日本による素材・部品技術の開発の歴史は長い。日本は明治維新当時、近代化を推進し、基礎科学の育成を富国強兵の第一目標に掲げた。1960-70年代の好景気では政府レベルの基礎科学投資が集中的に行われた。金昌経(キム・チャンギョン)元教育科学技術部次官は「その結実が素材・部品・設備分野のノーベル賞だ」と指摘した。半導体研究で1973年にノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏(東京通信工業・現ソニー)、世界初の青色LED(発光ダイオード)を開発し、2014年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏(日亜化学工業)、そして、今年の吉野氏に至るまで、日本は素材・部品・設備分野だけでノーベル賞受賞者10人を輩出した。

 得意分野で一つの井戸だけを掘る日本特有の匠の精神も日本を素材・部品強国へと導いた原動力だ。吉野氏の場合、1972年に入社し、2015年に顧問に退くまで、40年以上リチウムイオン電池研究にまい進した。2002年に企業の研究員として化学賞を受賞した田中耕一氏も管理職への推進ではなく、研究を選んだ。

 2000年代に入り、ようやく基礎科学に本格的な投資を開始した韓国は、ナノ技術、遺伝工学など特定技術で成果が上がると、資金と人材がそこに集中し、基礎分野がないがしろにされるという悪循環を繰り返している。集中現象が周期的に科学界を襲う韓国とは異なり、日本の研究者は一生をかけて一つのテーマに取り組み、素材・部品・設備のすそ野を広げた。漢陽大化学工学科のペ・ヨンチャン教授は「政府や企業の支援が長くても4-5年の韓国が日本のような素材強国になるのは夢のような話だ」と話した。

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