韓国統一部(省に相当)が昨年9月、北朝鮮が6回にわたって核実験を行った咸鏡北道豊渓里に近い地域出身の脱北民10人を対象に放射能被ばく検査を行った結果、このうち5人の被ばくの痕跡が「染色体異常」の判断基準に当たる250ミリシーベルトを上回った。48歳の女性の場合、「発がん確率の急上昇」に該当する1386ミリシーベルトという結果が出た。原発業界従事者の年間許容値が50ミリシーベルト程度だ。ところが統一部は、1年にわたってこの結果を発表していない。韓国政府が、ソウルと同水準(年間1ミリシーベルト)の福島の放射能問題を絶えず取り上げているのとは相反する態度だ。

 保守系野党「正しい未来党」の鄭柄国(チョン・ビョングク)議員のオフィスが統一部から受け取った資料によると、昨年の放射能被ばく検査対象者10人のうち5人の体で、それぞれ7-59カ所の遺伝子変異が確認された。この5人からは、それぞれ279-1386ミリシーベルトの放射線被ばくの痕跡が出た。最高値(1386ミリシーベルト)を記録した48歳の脱北女性は、吉州邑(豊渓里から23キロ)に住んでいた当時、1回目から3回目の核実験(2006-13年)を経験した。これに先立ち30人を対象に行った17年の検査では、4人の被ばく量が250ミリシーベルトを超えた。日常生活で被ばくする年間自然放射線量は2.4ミリシーベルトだ。

 KAIST(韓国科学技術院)のチョン・ヨンフン教授は「数百ミリシーベルト以上の数値は、日常生活では絶対に出ることはあり得ない」と語った。核実験による放射能被ばくとの関連性が大きいというわけだ。チョン博士は「かつて米国ネバダ州などで核実験を行っていた当時も、これほど高い数値は報告されなかった」として「豊渓里核実験場で地下坑道が崩れたこともあり得るし、状況の管理がどうなっているのか、調べてみなければならない」と指摘した。

 専門家らは、6回にわたる核実験で豊渓里周辺の土壌や地下水が放射能に汚染された可能性はかなり高い、とみている。金泰宇(キム・テウ)元統一研究院長は「豊渓里など吉州郡の住民は、核実験場の万塔山を水源とする地下水を飲み水として使っている」として「この飲み水を通して放射能にさらされるケースが多いと思う」と語った。

 この地域出身の脱北者の間からは、数年前から核実験場周辺の村で奇形児が生まれたり、原因不明の「鬼神病」にかかったりするという証言が多数出ている。情報機関の元関係者は「万塔山を水源とする長興川、南大川が吉州郡・花台郡を経て東海まで流れている」として「海流に乗って韓国に影響を及ぼす可能性を綿密に調査すべき」と語った。

 韓国側最北端の高城から300キロ、ソウルから450キロ離れている豊渓里の放射能汚染の可能性は、このように韓国国民の生命・安全と直結した問題であるにもかかわらず、統一部は検査結果を発表しなかった。統一部は、国会提出資料でも詳細な内訳は非公開処理したといわれている。これについて統一部の当局者は「17年の研究の結論は、放射能被ばくと(核実験は)因果関係はないというもの」だとして「(昨年)追加検査で出てきた内容は前年と同じなので、特に発表していないと思う」と語った。

 これは、日本と過去史・経済対立を繰り広げている韓国政府が、11年に原発事故が起きた福島県地方の放射能汚染問題を繰り返し提起する態度とは全く違う。

 朱漢奎(チュ・ハンギュ)ソウル大学原子核工学科教授は「福島地方の場合、平均の放射線数値は1ミリシーベルト程度で、放射能の事故が起きたときの現場の作業員も(被ばく線量は)100ミリシーベルト以下だった」「豊渓里出身の脱北者の検査結果は日本人の数百倍に達する大変なレベルで、放射能にさらされたのでないなら出てくるはずがない数値」と説明した。野党関係者は「こんな深刻な結果を、韓国政府があえて過小評価しているかのような印象を拭い難い」として「北朝鮮をかばっているのではないか」と語った。

 鄭柄国議員のオフィスによると、検査対象になった脱北民の相当数は頭痛、視力低下、嗅覚・味覚の鈍化、心臓の痛み、白血球の減少、骨・関節の痛みなど原因の分からない疾患に悩まされている。だが韓国政府は、こうした人々への後続の案内を十分に行っていないという。

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