寄稿
【寄稿】韓国軍は専守防衛の「韓国自衛隊」と化すのか
戦争抑止の中核は反撃演習…防衛だけでは北の誤った判断を招く
ウォーゲーム演習だけをやる軍隊、有事の際にはきちんと戦えない
板門店宣言から1年がたった。これまで北朝鮮は、核能力の完成でこれ以上やる必要がなくなった核・ミサイル試験を留保する代わりに、北朝鮮制裁の履行を緩和させ、韓米協調と韓国の安全保障態勢を深刻に揺さぶってきた。中でも韓米合同演習・訓練の中断は、南北軍事合意書と共に韓国の安全保障にとって致命的な一打となっている。
6・25戦争(朝鮮戦争)以降、韓国が平和と繁栄を謳歌(おうか)できていたのは堅固な連合防衛体制のおかげで、その根幹は合同演習・訓練だった。ところが、その根幹が丸ごと揺らいでいる。何よりも、反撃演習と大規模野外機動訓練、そして韓国政府・韓国軍がそろって参加する国家総力戦演習が中断されたのは最大の問題だ。韓国政府は「中断ではなく変更されたのであって、むしろ連合防衛力は向上した」と強弁するが、これは「金正恩(キム・ジョンウン)の核放棄の戦略的決断」に次ぐ大うそにほかならない。
韓米同盟の第一目的は戦争の抑止だ。これまで北朝鮮が戦争を起こせなかったのは、韓国軍の反撃で政権が崩壊しかねないという恐怖があったからだ。ところが、抑止の中核である反撃演習はせずに防御演習だけやるとなると、北朝鮮が「駄目でもともと」という誤った判断の下に戦争を起こす可能性は大きくなるに決まっている。
米軍増援部隊が韓半島(朝鮮半島)に移動する時間を考慮すると、海軍・空軍は初期防衛段階から投入され得るが、地上軍は反撃段階のあたりでようやく投入が可能になる。地上作戦は、地形の条件や多様な部隊が参加するため海上・航空作戦に比べずっと複雑で、韓米の協調事項も多い。しかも北朝鮮地域での反撃作戦は、平素から現地に行ってみることはできないため、より多くの演習が必要だ。なのにこれを省略するのは、「ふりをするだけ」と言うよりほかない。
戦闘兵力と装備を動員した合同野外機動演習も、大部分は中断された。今春予定されていた合同上陸演習「双竜訓練」や合同空軍演習「マックスサンダー」は、既に取り消しになった。12月にある別の合同空軍演習「ビジラント・エース」も、やらない可能性が高い。野外での実動訓練をやらず、指揮所に座ってウォーゲーム演習ばかりやる軍隊は、有事の際にきちんと戦うことはできない。
1975年までは戦時に備えた合同軍事演習と政府演習を分離してやっていたが、76年からは統合し、世界で唯一の韓米合同国家総力戦演習「乙支フリーダム・ガーディアン」(UFG)へと発展した。戦時に備えた、最も優れた演習だと誰もが認めているものを急いでなくしてしまう、その理由が気になる。世界がうらやむ韓国の成功神話を否定して犯罪集団北朝鮮の失敗を称賛する、ねじれたイデオロギーの延長線上にあるのではないか。
韓米の主な軍人の補職期間(1-2年)と韓国軍兵士の服務期間(20カ月以内)を総合すると、きちんと訓練できない状態がおよそ1年続いたら、正常な戦闘力発揮は難しい。昨年6月のシンガポール会談以降、合同演習が中断されたのに続いて、9月の平壌会談後は韓国軍単独の演習すらきちんとできずにいる。加えて、将兵の精神武装と軍の綱紀の緩みも深刻だ。韓国人の目前に、実質的な武装解除が一気に迫ってきた。
米国は「訓練されていない軍隊は戦場に投入しない」という原則を持っている。勝利の可能性も低く、準備のできていない兵士を死へと追いやることは非倫理的行為だという理由からだ。合同演習・訓練の中断が続けば、米国内で在韓米軍の撤収と韓米同盟の解体を求める世論に拍車が掛かることもあり得る。
正常な国の中で、防御だけをやる「専守防衛」を採択している国はない。日本は例外的に、戦争を起こした原罪ゆえに憲法9条で戦争放棄や交戦権否定などを盛り込んだ、いわゆる「専守防衛」原則を明示し、国軍ではなく自衛隊を保有している。最近、安倍政権は「普通の国」化を目標にこれを脱しようと努め、米日同盟の強化に余念がない。
韓国は逆に、韓米同盟を弱体化させ、「どんな場合にも戦争は駄目」だとして専守防衛演習だけをやろうとしている。反日を叫びながら、戦犯国家の「かせ」である専守防衛に憧れるという二律背反が続けば、いつか韓国軍は自衛隊に、日本の自衛隊は国軍になるという逆転が起こらないとも限らない。現在、日本の自衛隊は強力な戦闘力に加えて堅固な米日同盟に後押しされているが、未来の韓国自衛隊は「弱小志向の国防改革2.0」のせいで矮小(わいしょう)な姿となり、韓米同盟もなく、一人ぽつんと立つことにもなりかねない。殺伐とした北東アジアで、韓国はこんなありさまでどれだけ耐えられるだろうか。
シン・ウォンシク元合同参謀本部作戦本部長・予備役陸軍中将