社説
【社説】自ら指示した積弊捜査を「統制できない」と言う文大統領
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2日、大統領府で各方面の有識者を招いた懇談会を行い、その席で「ある方たちから、もう積弊捜査はやめて、統合に向かって進むべきだとよく言われる」と明かした上で「生きて動く捜査に対して政府は統制できないし、また統制すべきでもない」との考えを示した。文大統領は「国政ろう断や司法ろう断が事実であれば、これは非常に深刻な反憲法的行為であり、憲法を破壊するものだ。そのため私個人として簡単には妥協できない」とも述べた。
文大統領のこの言葉は、積弊精算やその捜査が文大統領本人の意向とは関係なく捜査機関独自の判断で始まり、それが今も続いているかのように聞こえる。文大統領は就任演説で「積弊精算」という言葉は1回も使わず、国民統合をやたら強調していた。ところが就任直後に掲げた100項目からなる国政課題の第1が積弊精算だった。そのことを国民は今も生々しく記憶しているだろう。文大統領は「自分が最も重視するのは積弊精算」と公表し、検察と警察に対して徹底した捜査を指示したのだ。しかも一旦起訴された事件については公訴の維持を徹底して指示するなど、裁判の具体的な戦略まで国政の課題に含めた。大統領府の指示によって20カ所近い政府機関に「積弊精算タスクフォース」が設置され、これが具体的な捜査対象を選んだ。
その後、文大統領は「積弊精算という大ざっぱな言葉ではその意向がくみ取られない」と考えたのか、今度は具体的な事件を取り上げ捜査を指示するようになった。たとえば2017年の7月には「防衛産業不正の清算」を指示し、8月には朴賛珠(パク・チャンジュ)元陸軍大将による公館兵への甲質(カプチル、「上から目線」の意)疑惑に対し「根本から解明せよ」と指示した。さらに18年2月には「江原ランドでの採用不正捜査外圧疑惑を厳しく究明せよ」と命じた。18年7月のインド訪問中には、キャンドル集会当時の戒厳令文書について独立捜査チームを立ち上げて解明するよう指示した。
文大統領の直接の指示はまだある。今年3月に東南アジア歴訪を終えた直後、金学義(キム・ハクウィ)元法務部(省に相当)次官が建設業者から性接待を受けたとされる問題、女優の故チャン・ジャヨンさん自殺事件、クラブ「バーニングサン」事件などの捜査も指示し「時効が過ぎた事件でも事実関係を究明せよ」との指針を下した。大統領府民政主席は就任直後の会見で「民政主席は捜査を指示すべきでない」と述べたが、この言葉は「大統領が直接指示するので、自分は外れる」という意味のようだった。朴賛珠元大将への捜査は甲質疑惑はもちろん、別件の贈収賄についても無罪が確定し、戒厳令文書問題も大統領が解明を指示したクーデターについて結局証拠は見つからなかった。
これらの無理な捜査は、大統領の指示がなければ検察も最初から動こうとはしなかったはずだ。このように大統領が検察に対して直接数え切れないほどの指示をしておきながら、今になって本人自ら「捜査をやめさせるのは捜査機関の独立性を害する」などと言っている。この言葉には国民の誰もが戸惑いを覚えていることだろう。