文在寅政権
文在寅外交の「首脳会談万能主義」、国際政治の現実と乖離
外交専門家らは、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権の外交・安全保障政策が抱える最大の問題点の一つに、「信仰に近い首脳会談万能主義」を挙げる。「ボトムアップ」「トップダウン」を適切に配合するという外交の定石を無視し、トップダウンにばかりこだわっているのだ。
外交関連の元高官らの意見を総合すると、南北経済協力、北朝鮮非核化、制裁緩和を巡る南北米の立場が異なっている状況では、多少遅くなっても実務ラインで合意の輪郭を作ってから、首脳間の談判で残りの意見を擦り合わせるという形で「ボトムアップ」と「トップダウン」を組み合わせるのが最善だ。
ところが文在寅政権は、大統領選前から「トップダウン」式を妄信し、今もその考えにとらわれている、という指摘がある。ある与党関係者は「与党側が首脳会談を信奉するようになったきっかけは6・15と10・4(6・15は2000年6月15日。金大中〈キム・デジュン〉大統領と金正日〈キム・ジョンイル〉総書記が首脳会談で合意した南北共同宣言。10・4は2007年10月4日。盧武鉉〈ノ・ムヒョン〉大統領と金正日総書記が首脳会談で合意した南北共同宣言)。南北関係がどれほど困難でも、ひとたび首脳が会えば全て解決し、周辺諸国もついてくるほかない、と強く信じている」と語った。政府・与党が絶えず「南北→米朝対話の好循環」を主張する背景でもある。「ワシントン・ノーディール(成果なし)」という非難や、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の「出しゃばり」発言があっても、文大統領は15日「南北首脳会談を本格準備・推進する時期」と語った。
トップダウンの中でも南北首脳会談を強く押し出すのは、韓国大統領府(青瓦台)・与党の中心人物らが、学生運動時代から心に抱いてきた「ロマン的対北温情主義」とも深い関係がある、と分析されている。左派学生運動圏から右派へと移ったある人物は「386(1990年代に30代で80年代に大学に通った60年代生まれの世代)は、(韓米)同盟よりも民族の方が優先という考えを確固として持っている。南北関係に執着するので無理筋が続き、4大国外交はおろそかになるのは避けられない」と語った。
問題は、こうした韓国政府・与党の認識が、国際政治の現実とは懸け離れているということだ。元統一相政策補佐官のキム・スン氏は「現政権のインナーサークルの認識は、北朝鮮の核がまだ初歩的な段階だった盧武鉉政権末期のものにとどまっている。その後10年間で5回の核実験を行い、北朝鮮の核が高度化し、複雑な国際問題になったという事実を見過ごしている」と語った。元国家情報院第1次長の南柱洪(ナム・ジュホン)氏も「ハノイ・ノーディール、ワシントン・ノーディールを通して、トップダウン外交の限界が明らかになった。米朝首脳会談が再度開かれても、成果を期待するのは難しいとみられる」と語った。