萬物相
【萬物相】アダルトビデオを見る権利
1990年代の中ごろまで、韓国でポルノの取り締まりと言えば親や教師の仕事だった。それも写真がほとんどで、動画はビデオテープくらいしかなかった。これをインターネットがひっくり返した。世界最高のネット大国である韓国にもポルノ映像は急速に普及した。せきを切ったようにポルノ映像が広まるのを防ぐ手立てはなかった。欧米や日本などポルノについて一定の基準がある国とは違い、韓国では何がポルノで何がそうでないか今なおはっきりしないのが現状だ。
先週末にソウル駅広場で「ヤドン(アダルトビデオ)を見る権利」を求めるキャンドル集会が開催された。放送通信委員会が違法アダルトサイトを新しい方法で遮断すると、これに反発した市民が100人ほど集まったという。彼らは「ここは中国や北朝鮮ではない」「自分がどんなサイトにアクセスしているか政府はチェックするな」などと抗議した。この種の規制に反対する大統領府への請願もすでに20万人を超えた。
アダルトビデオをはじめとする違法映像を厳しく取り締まるのは米国も日本も欧州各国も同じだ。放送通信委員会もいわゆる「リベンジポルノ」など数々の違法映像や写真、あるいは賭博サイトなどを効率的に遮断する方針を何度か説明してきた。「19禁の合法アダルト映像を遮断しているわけではない」というのがその言い分だ。しかし「アダルトビデオを見る権利」を訴える市民は「海外の合法サイトも遮断されてしまう」などとしてこれに反対している。
米国のニューヨーク・タイムズスクエアでは月20億ウォン(約2億円)でアダルトサイトの広告が堂々と表示される時代だ。12億に達するといわれる全世界のネットサイトの中で、アクセス数上位300のうちアダルトサイトは11に上るという。これらアダルトサイトのトップは全体の18位で、1カ月で15億のアクセス数があるそうだ。アダルトサイトにアクセスするネットユーザーは月平均450分そこにとどまるらしいが、これはツイッター(160分)やアマゾン・ドットコム(110分)よりもはるかに長い時間だ。
米国では1973年の最高裁判決で「作品に文化・芸術・政治・科学的価値が全くないとき」は「淫乱物として処罰可能」との原則を提示した。つまりそれ以外のアダルト映像や写真は全て合法ということだ。韓国では今も「過度な性的欲求を刺激し、羞恥心を誘発するとき」という非常にあいまいな基準でしか判断できない。そのためこの機会に「ポルノとは何か」について社会的にしっかりと議論してはどうだろうか。違法なアダルト写真や映像はアクセスを遮断すべきだが、「禁止」ばかりの規制だとかつての独裁政権を思い起こさせる。「商業ポルノの是非を善悪の観点だけで判断するのは無意味」との主張も根強い。いずれにしてもソウルの都心で「アダルトビデオを見る権利」を主張する時代が来るとは誰が予測できただろうか。
韓賢祐(ハン・ヒョンウ)論説委員