南北関係
ユーチューブやインスタでばらまかれる北の体制宣伝コンテンツ
北朝鮮の体制を称賛する動画や写真が、ソーシャルメディアを拠点として広範囲にばらまかれている。韓国からのアクセスが遮断される北朝鮮のサイトは、動画サイト「ユーチューブ」や写真共有会員制交流サイト(SNS)「インスタグラム」にサブアカウントを作っている。南南対立(韓国国内での対立)をあおる映像を集中的に掲示するかと思えば、昨年からは暗号資産(仮想通貨)、オンライン決済手段を用いて後援金まで集めている。
韓国からもアクセスが可能なユーチューブのチャンネル「赤い星TV」(チャンネル登録者1万2300人)には、およそ1600本の動画がアップされている。朝鮮中央放送委員会が運営していたKCTVチャンネルの後継と考えられている。北朝鮮の朝鮮中央テレビの放送をリアルタイムで流したり、過去の放送内容を10分前後にまとめて公開したりしている。最近は、全国民主労働組合総連盟(民労総)など韓国国内の左派系団体の声明や親北メディアの報道内容も紹介している。韓国の保守政党や右派市民団体、日本政府が主たる攻撃対象だ。昨年12月29日には「(韓国の保守メディアが)社会的混乱をあおるフェイクニュースを流している」という内容の動画をアップし、12月21日には保守系野党「自由韓国党」のナ・ギョンウォン院内代表などを「守旧の残党」と表現した。2017年2月に開設されたが、昨年1年間でチャンネル登録者は2倍に増えた。このチャンネルの場合、後援システムを備えているのも特徴だ。ロシアが開発したといわれるオンライン決済システム「WebMoney」を利用して後援金を受け付けている。銀行のネットワークを経ることなく資金が流通する「個人間取引(P2P)」方式で国際制裁を回避し、マネーロンダリングに使われているという疑惑が持ち上がったこともある。米ドル、ロシアのルーブル、欧州連合(EU)のユーロのアカウントが記載されているほか、暗号資産のビットコインでも後援ができる。
オンラインには、北朝鮮の体制宣伝物も多い。ユーチューブのチャンネル「朝鮮のきょう」(チャンネル登録者1万1000人)には、故・金日成(キム・イルソン)主席の抗日武装闘争を題材にした宣伝映画『朝鮮の星』の動画が10件アップされていて、累積再生数は1000万回に迫る。230万ビューの再生回数を記録した「最後の機会」というタイトルの動画では「米国は朝鮮に誤って手を出した。米帝が動けば、ためらいなく核で機先を制してぶった切る」と主張した。同じくユーチューブのチャンネル「NORTH KOREA TODAY」(チャンネル登録者3万2000人)には、平壌市内で開かれた群衆集会、金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長の現場視察などの動画2000本がアップされている。
韓国の一部ネットユーザーは、北朝鮮の動画をツイッターやフェイスブックにも転載している。最高人民会議、マスゲームなど北朝鮮内部の行事の写真を主に掲載している、インスタグラムの「朝鮮のきょう」は、フォロワー2000人のうち半数以上が韓国人だ。このアカウントには、北朝鮮の体制を美化する写真およそ1万6000枚がアップされている。高麗大学法学専門大学院の張永洙(チャン・ヨンス)教授は「韓国国民がユーチューブなどを通して北朝鮮関連のコンテンツを見る行為は違法ではないが、利敵表現物と見なす余地がある動画をオンラインで無断配布する場合、国家保安法に抵触して処罰されかねない」と指摘した。
韓国政府は、一般人による北朝鮮ウェブサイトへのアクセスを遮断している。しかしユーチューブなどに開設された北朝鮮チャンネルの場合、アクセスを防ぐのは難しい。実際の運営主体が北朝鮮政府なのかどうか確認が困難で、ユーチューブやフェイスブックなど外国系企業も協力的ではないという。そうしている間に、アクセス数が増えている一部の北朝鮮宣伝アカウントには広告まで付いている。CNNテレビは昨年、「巨大IT企業や流通業者、政府機関のユーチューブ広告が北朝鮮の宣伝チャンネル『赤い星TV』などに掲載された」と報じた。