コラム
【コラム】北朝鮮スパイを見逃さないフランス
「あのフランス人の男はキャンドル集会に熱心に参加していた」
パリ在住の韓国人たちはこの男が誰か一目でわかった。北朝鮮のスパイとして活動した容疑でブノア・ケネディというフランス上院の職員が先月25日に逮捕されたが、この男について現地の韓国人たちは「あのときのあの男だ」と口々に語り合った。
フランス議会上院で勤務していたケネディは、パリ政治学院とフランス国立行政学院を卒業したエリートだ。2年前の今頃、ケネディは当時韓国の朴槿恵(パク・クンヘ)大統領辞任を求めパリで行われていたキャンドル集会に参加していた。今年春には旅客船「セウォル号」沈没による犠牲者の4周忌追悼行事にも参加した。
ケネディはフランスでは誰もが知る親北の人物だ。2012年に平壌で開催された金日成(キム・イルソン)主席誕生100年記念行事には自ら参加し、今年開催された北朝鮮政府樹立70周年記念式典(9・9節)でもフランスの準備委員長を務めた。フランス紙ル・フィガロは「ケネディは7回平壌に行ったことがある」と伝えている。このケネディをフランスの情報機関・国家治安総局(DGSI)は長い間監視してきた。とりわけケネディがフランスの様々な情報を北朝鮮に流した容疑がほぼ固まった今年3月からは重点監視を続けてきた。DGSIはケネディを逮捕する直前、上院の彼のオフィスやパリ市内の自宅はもちろん、地方の両親の家まで家宅捜索を行ったそうだ。
上院を家宅捜索するには上院議長の同意が必要だ。DGSIが提示したケネディの捜索令状を見た上院のラルシェ議長は「上院のイメージが深刻なほど失墜する問題だ」として快く応じた。リベラル系の新聞ル・モンドも「ケネディは死刑制度に強く反対してきたが、一方で北朝鮮の人権問題は完全に見て見ぬふりをしてきた」と厳しく批判した。
フランスは思想の自由が徹底して保障されている国だ。社会主義の伝統も根強い。ケネディ1人が活動したからといって、遠くの北朝鮮によってフランスが何らかの影響を受けるとは考えにくい。それでも国の安全にとって脅威になりかねないと判断されれば、フランスはためらうことなく身柄を拘束し処罰する。ただし裁判はまだはじまっておらず、ケネディの詳しい容疑についても何も伝えられていない。しかし反逆罪が適用されていることから「自発的な親北活動にとどまらず、何らかの指令を受けて動いてきた物証が確保されたのでは」との見方もある。
先日ソウルでは金正恩氏をあからさまに称賛する集会が都心の光化門で開催され、多くの市民を驚かせた。文在寅(ムン・ジェイン)政権が進める南北和解の雰囲気に心高ぶる市民も少なくないだろう。しかし韓国と北朝鮮は今なお軍事的に対峙しており、北朝鮮は核兵器開発をやめようとしない。また北朝鮮の人権問題に改善がみられたとの情報も伝わってこない。つまり本質も現状も全く変わっていないのに、活発なのは大韓民国の自由民主主義体制を揺るがす動きばかりだ。これを監視すべき立場の方たちは、今回のフランス政府の対応をしっかりと参考にしてほしい。韓国では今ほどケネディのようなスパイが活動しやすい時期はこれまでなかったのではないか。
パリ=孫振碩(ソン・ジンソク)特派員