ソウル市が貸し出し用自転車「タルンイ」のヘルメットを無料で貸し出し始めてから4日で半数を失ってしまったことが分かった。市は、7月20日から23日までに永登浦区汝矣島のタルンイの貸出所30カ所にヘルメット858個を置いた。9月28日からヘルメットの着用が義務付けられた自転車の利用者たちのための事前サービスだった。しかし、施行から5日目である24日に点検したところ、すでに404個(47%)が失われていることが分かった。ソウル全域の貸出所1290カ所を調査した結果だ。市の関係者は「これほどまでに回収率が低いとは予想できず、ショックが大きい」とコメントした。

 市民の良心を信じて始められた共有経済サービスが揺さぶられている。汝矣島地域のタルンイヘルメットの無料貸し出しサービスは、1カ月間の試験サービスだ。タルンイを借りる際には別途の貸し出し手続きなしにヘルメットも借りることができる。ヘルメットは、自転車のかごに入れたり保管ボックスに入れたりして管理されていた。返却する際は、自転車のかごに入れるか、近くの保管ボックスに入れる。しかし、利用者でもないのにヘルメットを持ち帰ったり、使っても返却しなかったりするケースが相次いだ。キム・ベクヨン(72)タルンイ管理係は「タルンイを利用しないのにヘルメットをまとめて持って帰る人を現場で捕まえたのは、1、2回ではない」と説明する。

 7月21日午後、ソウル市永登浦区汝矣ナル駅前のタルンイ貸出所に個人所有の自転車に乗った30代の男性が訪れた。男性は、保管ボックスからヘルメットを取り出し、そのまま行こうとした。タルンイ管理係が「ヘルメットはタルンイの利用者だけが使用することができる」と言って呼び止めた。しかし、男性は聞こえないふりをして行ってしまった。22日午前、汝矣島の国民日報ビルの前では遊びに来た中年の男女5、6人がヘルメットの保管ボックスの前に集まってきた。これら中年男女は「何でこんな所にこんな物があるのか」と言いながら、一つずつ持っていこうとした。市の職員が出てきて「自転車を借りる人のために置いてある」と説明した。24日、汝矣島の漢江周辺と地下鉄駅の周辺などでは、個人所有の自転車に乗りながらタルンイのヘルメットをかぶった人々があちこちで見受けられた。

 ソウル市は当初タルンイのヘルメットにタグを付け、位置追跡と身元確認が可能な貸し出し、返却システムを構築することを検討した。しかし1年の通信費だけで12億ウォン(約1億2000万円)もかかり、別途の装置を構築せずに運営することにした。市民意識を信じようといった試みだった。しかし、ヘルメットの紛失率が高まったことで、無料貸し出し事業の廃止を検討している。現在のように1日で半数程度の回収率では、10日も持たずに試験サービスは打ち切らなければならない。市は、施行3日目の22日から、貸出所の保管ボックスのヘルメットの数を減らすよう指示した。ソウル全域にわたるヘルメットの回収も1週間に1回から3回に増やすことにした。事業施行の前日の19日には、ヘルメットが全て盗難に遭った所もあった。同日午前に汝矣ナル駅のタルンイ貸出所の保管ボックスに入れてあった64個のヘルメットのうち、30個が市の職員たちが席を外していた数時間の間になくなってしまった。

 タルンイのヘルメットのような共有経済が失敗に追い込まれたケースは、何も今回が初めてではない。書籍、傘、常備薬など共に使用しようとして始めたサービスが、一部の市民のために廃止されたケースは多い。大田市は、2014年に自転車のヘルメット150個をエキスポ市民広場と貿易展示館などにある貸出所に配置したものの、2カ月未満の間に90%がなくなった。ソウル京義・中央線は、2016年1月から地下鉄歴史図書館「読書パラム列車」を運行したものの、7カ月の間に書籍500冊のうち80冊が失われた。ソウル交通公社も2011年に良心図書館13カ所に書籍約1300冊を置いたものの、このうち9カ所の回収率が3%台にとどまり、2年で運営中止に追い込まれた。

 ソウル市江南区は、今年7月から区役所と保健所、22カ所の全ての洞住民センターに傘450本を無料で貸し出す「清廉傘」サービスを開始した。25カ所の自治区のうち、傘の貸し出しサービスを大々的に実施したのは江南区が初めてだった。しかし24日、江南区の関係者は「現在回収された傘は30-40本にすぎない」と話した。ソウル交通公社は昨年5月に地下鉄5-8号線の35駅にばんそうこう、生理用ナプキンなどを配置し、誰でも利用できるようにした。しかし、一部の市民たちが必要以上に持ち帰ったことから、試験運用から6カ月で事業を中止した。

 専門家たちは、一部の市民が家族単位の小規模共同体生活にだけ集中し、共有システムに対する市民意識が低いと指摘する。こうした問題について、高麗大学社会学科のユン・インジン教授は「まだ多くの国民が公共サービスによって提供される品物を無料の品物と考えている。韓国社会は信頼社会に移行する過渡期にあるため、不特定多数を対象に公共サービスを提供する際は、最低限の費用を受け取るか、使用者が誰なのかを確認する必要性がある」と主張する。また、成均館大学経済学科のチョ・ジュンモ教授は「ソウル市のような大都市で不特定多数を対象に公共サービスを提供する際は、わずかであったとしても費用を徴収し、使用者を確認するシステムを構築しなければ、管理することは難しい」と説明した。

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