「今後300年間、サバやタラは絶対に食べてはいけいない。遺言書を今夜書いて、10世代にわたり(食べてはならないと)伝えなければならない」

 今月13日午後、ソウル市城東区にある金湖高校の視聴覚室。東国大学医学部キム・イクチュン教授は高校1年生70人に福島原発事故を説明した際、「学校の栄養士の先生に『こうした魚を給食で出すな』と説得しなければならない」と言った。これに驚いた生徒たちは「家でよく食べるものなのに」「サバの塩焼きもだめなの?」とざわつき始めた。2011年に発生した福島原発の爆発事故で放射能が北太平洋に流出し、この海域で獲れる魚は汚染されているという主張だ。

 この講義は、創意あふれる学習能力の養成を試みる「革新学校」の金湖高校が企画した「脱核講義」だ。微生物学を専攻したキム・イクチュン教授は09年ごろから慶州環境運動連合の常任議長などを務めて「反核・脱原発」を主張、原子力安全委員にもなった。キム・イクチュン教授は同日の講演で、「昨年公開された原発災害映画『パンドラ』の総括諮問を務めた。大統領選挙では文在寅(ムン・ジェイン)候補陣営に加わった」と言った。同教授は新政権の脱原発公約にも大きな影響を与えていると言われている。

 生徒たちを動揺させたキム・イクチュン教授の講演内容には事実でなかったり、誇張されたりしている部分が多いことが分かった。例えば、「北太平洋産のサバなどは放射能に汚染されている」という同教授の主張は、ソーシャル・メディアやインターネット掲示板などで「フクシマ怪談」として広く知られている。これについて食品医薬品安全処(省庁の1つ)は「2週間に1回、太平洋産のサバやタラなど主な水産物の放射能検査を実施しているが、これまでに基準値(セシウム100Bq /㎏・ヨウ素300Bq /kg)を上回り、不適合と判定された事例はなかった」と明らかにしている。

 韓国は欧米などの先進国よりも厳しい基準値を適用している。米国の飲食物に対するセシウム基準値は1200Bq/㎏で、韓国の12倍だ。ソウル大学原子核工学科のチュ・ハンギュ教授は「例え汚染基準値に引っ掛かるサバを毎日1年間食べても、コンピューター断層撮影装置(CT)検査1回で浴びる放射能量の10分の1程度に過ぎず、韓国のどの地域で暮らしていても自然に浴びる可能性のある1年間の放射能量の3分の1と同じくらいだ」と話す。

 キム・イクチュン教授は高校生対象の講演で、「日本領土の70%は放射能に汚染され、日本で収穫された農産物も汚染されている」と主張したが、これも事実とはかけ離れているという。同教授は「米国科学アカデミー紀要」(PNAS)に掲載された論文の日本汚染地図を根拠に挙げ、こうした主張を繰り広げている。日本の食品衛生法の基準による土壌内セシウム濃度は2500Bq/kgが安全基準で、当時この基準以上に汚染された地域は福島原発一帯しかなかった。複数の原子力専門家は「キム・イクチュン教授は何の根拠もなしに基準を5Bq/kgに下げ、70%が汚染されていると主張している。食品の許容基準値も100Bq/㎏より上だが、5Bq/㎏を超えると危険だというのは根拠がない主張だ」と反論した。

 キム・イクチュン教授はまた、高校生たちに「危険性があるから世界が脱原発の方向に進んでいるのに、韓国だけがカネに目がくらんで原発への道を進んでいる」と主張した。これを聞いた生徒が「英国では原子力を予備発電装置として今も使用していると聞いた」と言うと、キム・イクチュン教授は「英国は先進国の中で唯一、原発を作る計画を持っているが、実際に建てられるかは確実ではない」と答えた。しかし現在、世界で建設中の原子力発電所は60カ所ある。放射線安全文化研究所の所長を務めたイ・ジェギ漢陽大学名誉教授は「2010年までに脱原発を決めていたスウェーデンはまだ原発を使っているし、フィンランドは新たに建設している」と話す。

 こうしたことから、「一方的な主張をする人物を高校での講演に招いたのは教育的でない」という指摘も一部にある。高麗大学教育学科のクォン・デボン教授は「示唆的で敏感な問題について外部講師を招く場合は、生徒たちがバランスの取れた視点を持てるようにすべきだ。感受性が強い高校生たちに一方的な主張を聞かせるのは危険だ」と話している。

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