コラム
【コラム】新たな袁世凱を自ら生み出す韓国政府の低姿勢外交
中国外交部(省に相当、以下同じ)の陳海・アジア局副局長が韓国外交部の反対を押し切って先月末に韓国を訪れていたことを知った時、記者は「あの『陳世凱』が来ていたのか」とふと思った。 陳氏は2012年から14年までソウルの中国大使館に勤務していたが、当時彼はソウルの外交関係者の間で「陳世凱」と呼ばれていた。これは言うまでもなく、1882-94年に当時の朝鮮に滞在し、朝鮮にあれこれ干渉を行っていた清国の袁世凱(1859-1916)から取った名前だ。陳氏の韓国在任中の立場は公使参事官にすぎなかったが、実際はもっと高い地位にあるかのように振る舞い、自分よりもはるかに格上の韓国政府関係者らと付き合っていた。そのため陳氏は韓国国内で副大使あるいは代理大使のように認識されたため、韓国外交部は陳氏に対し、公使参事官という正式な立場で活動するよう求めた。ところが陳氏は韓国政府の要請を一顧だにせず、その後も副大使、代理大使として韓国の政財界関係者との人脈を築き続けた。ある韓国の国会議員とは「兄貴、弟分」などと呼び合っているとのうわさもあった。 陳氏は中国に戻ると、中国外交部で米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備を阻止する実務を担当した。ちなみに陳氏が今回の4泊5日の来韓中に会ったとされる議員の中には野党・改革保守新党の金武星(キム・ムソン)議員、孫鶴圭(ソン・ハッキュ)元民主党代表、朴智元(パク・チウォン)前国民の党院内代表、与党セヌリ党の趙源震(チョ・ウォンジン)議員など大物とされる議員も名を連ねている。金武星議員はTV朝鮮に出演した際「(陳氏が)THAAD配備を延期するよう求めたのでこれをたしなめた」と明かし、また共に民主党の李仁栄(イ・インヨン)議員は「中国がいつも言っているTHAADについての話だった」と伝えた。
陳氏は中国で事業を展開する韓国の企業経営者にも会っていたが、その時はおそらくもっと踏み込んだ話をしていたのだろう。ある大手企業の関係者は政府に「(THAAD配備に関して陳氏から)脅迫めいた話も聞いた」と伝えたという。このことを明かした政府関係者は「(陳氏が)どのような脅迫をしてきたかは話せない。それが外に流れれば、その企業がどこかが分かってしまい、中国でもっと厳しい報復を受ける恐れがあるからだ」と明かした。 陳氏が所属する中国外交部アジア局には4人の副局長がいるが、その中の1人にすぎない陳氏は韓国外交部で言えば課長よりも少し上の程度だ。その程度の人物がソウルでさまざまな活動をしている間に、かつて韓国大統領府で国家安保室長(閣僚級)を務めた金章洙(キム・ジャンス)駐中大使は北京で何をやっていただろうか。金大使が北京で中国政府から相手にされず、閣僚どころがそれ以下の中国政府関係者にさえ接触できなかった事実はもはや秘密でも何でもない。 韓国政府は閣僚経験のある人物を中国に大使として派遣するが、中国が韓国に大使として派遣するのは常に局長あるいは副局長クラスだ。ちなみに北朝鮮には次官クラスを大使として派遣していることから、韓国は北朝鮮よりも軽く見られているわけだが、陳氏の今回の来韓でその理由がはっきりした。韓国には課長クラスを派遣しても大物政治家がすぐ会ってくれるのだ。 今月4日、宋栄吉(ソン・ヨンギル)議員ら共に民主党の国会議員7人がまたも中国を訪問した。彼らは北京で王毅・外相や、全国人民代表大会(全人代)外事委員会主任委員の傅瑩氏らと面会し、孔鉉佑・外務次官補主催の夕食会に出席したが、それによって中国における韓国政府の権威はむしろ一層低下するだろう。かつて袁世凱による朝鮮での横暴を許したのは当時の朝鮮におけるふがいない外交政策だったが、今回陳氏を陳世凱としてしまったのも、同じく韓国政府の中国に対する行き過ぎた低姿勢外交に外ならない。