およそ4年前、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官の訃報を伝える記事を書いたことがある。当時、89歳だったキッシンジャーが倒れて病院に搬送されたという外信の記事を見て、前もって準備したものだ。

 キッシンジャーが退院したのに伴い、その記事は廃棄した。彼は生き残ったが、国際政治の舞台に、もはや彼が登場することはないと思った。ところがどっこい。キッシンジャーは退院からわずか1カ月で、中国の習近平国家主席から招かれ、地球の反対側まで行った。その後もしばしば、米国のバラク・オバマ大統領やロシアのウラジーミル・プーチン大統領などがキッシンジャーと会い、国際情勢についてアドバイスを求めたというニュースが伝えられた。93歳になった今では、ひねくれ者のドナルド・トランプ次期大統領の政策・人事に大きな影響力を及ぼしているという。ブルームバーグ通信は「キッシンジャーが主導するワシントン」が戻ってきたと報じた。

 キッシンジャーは、今から40年前の1977年に公職を離れたが、いまだに手厚い待遇を受けている。現代外交において、彼ほどの戦略家はまれだからだ。国際政治において「戦略」とは、地政学的変数を総合的に分析・予測し、大枠で外交の方向性を設定することを指す。国際情勢が「超不確実性の時代」に差し掛かりつつあることから、優れた戦略家の株価は跳ね上がることになる。

 今や韓国でも、前例なき外交・安全保障の危機を迎えて「戦略不在」に対する叱咤(しった)の声が上がっている。北朝鮮による核兵器の実戦配備は間近で、中国・日本は経済を武器に韓国を圧迫し、トランプ時代開幕に伴う米国発の暴風も迫る。ある元大使は「かつては戦略も何もなしに、ひたすら米国の後を一生懸命追ってさえいればよかったが、今は違う。体系的・長期的な戦略がなければ生存できない」と語った。

 しかし韓国の外交には依然として、物事が起きてから収拾するという「その場しのぎ」の処方しか見られない。ある外交官は「戦略的思考をする訓練を受けていないのが問題」と語った。韓国の外交官は、その日その日の行事・儀典・行政に追われ、一歩離れて「大きな絵」を見る余裕がない。エリートが配属される主要な部局であればあるほど、こうした傾向が強い。総合的な分析のためではなく上司の意向に合わせるために、夜を徹して報告書を修正する。こうして育った人間が知恵を絞ったところで、戦略が出てきたりはしないというわけだ。

 戦略家が天から降ってくるのを期待せず、戦略的思考を育むシステムを整備しなければならない。米国は第2次大戦後、体系的に戦略家を育成する必要性を感じ、国務省に政策企画室(PPS)を新設した。PPSはあらゆる部署の報告書に制限なく目を通し、討論し、グランドデザインを描いていった。ジョージ・ケナン、ポール・ニッツェ、ズビグネフ・ブレジンスキー、フランシス・フクヤマ、ポール・ウォルフォウィッツ、リチャード・ハースなど米国現代史の名だたる政策ブレーンの多くが、PPSで戦略的思考を身に付けた。

 これと合わせ、韓国の政界も、外交・安全保障戦略の樹立くらいには力添えをすべきだ。すぐに成果が出ないからといって、またすぐに党派の利害関係と合わないからといってせきたてる環境では、きちんとした長期戦略は期待できない。

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