「今どこにいるのか分からない。韓屋(伝統家屋)村のバス停を過ぎたような気もするし、まだずいぶん先のような気もするし…」

 7月9日、韓国南西部・全羅北道の全州駅から韓屋村に向かう市内バス。フランス人のピエール・アンブロアーズさん(21)とフィンランド人のエンニ・リンヌスさん(25)=女性=は、がらんとした車内で立ったままバスの路線図を穴が開くほど見つめていた。

 どれだけ見ても何の役にも立たなかった。路線図には英語表記がなかったのだ。英語の案内放送も流れない。彼らが知っているのは、バスに乗って11番目のバス停で降りれば目的地の韓屋村に行けるということだけだった。だが、バスは乗り降りする客がいなければスピードを落とさずバス停を通り過ぎてしまい、彼らをうろたえさせた。

 本紙取材記者は、来韓して3カ月もたっていないこの2人の外国人と地方の観光地を回った。彼らにとって、地方旅行は苦難の連続だった。目にした英語は「No Smoking(禁煙)」と「Toilet(トイレ)」だけ。公共交通施設やショッピングセンターに英語、中国語、日本語の案内表示があるソウルとは別世界だった。

■英語版の観光パンフレットなく食事メニューも韓国語のみ

 記者は旅行先として、百済最後の都が置かれた西部の忠清南道・扶余、そして韓屋村で知られる全州を選んだ。どちらも韓国を代表する観光地に挙げられる。2人には目的地だけを伝え、自分たちで移動や宿泊、食事の計画を立ててもらった。

 最初の目的地、扶余市外バスターミナルから苦労が始まった。彼らは扶余に行けば当然、英語版の観光パンフレットがあるものと思っていたが、市外バスターミナルの観光案内所には外国語版の観光パンフレットが残っていなかった。職員も英語を話せなかった。ここで目に留まった英語は「No Smoking」だけ。エンニさんは「旅行に関する情報を全く得られないのでもどかしい。それでもトイレに『Toilet』と書いてあるのは幸いだ」と話した。

市外バスターミナル近くの飲食店に入った。テーブルが20卓ほど並んだ、まずまず大きい店だったが、メニューに英語表記は全くなく、料理名は韓国語でしか書かれていない。ピエールさんが注文したのは、メニュー表の左上にあった「麦飯」。彼は「なんとなく店の代表メニューのような気がして頼んだが、悪くなかった。宝くじを当てた気分」と話した。

 「落花岩」と呼ばれる岩の絶壁がある扶蘇山の散策路入り口では、危うく「破廉恥な客」になるところだった。入り口には白い建物があり、チケット売り場と韓国語で書かれていたが、2人はその意味が分からず通り過ぎようとし、案内員に呼び止められた。恥をかいた後、1人2000ウォン(約190円)のチケットを買って扶蘇山を登った。エンニさんは「最初は外国人を入れないようにしているのかと思った」と話した。

■外国人にとって地方交通機関の利用はほぼ不可能

 1泊2日の旅行を終え、ピエールさんは「一番大変だったのは公共交通だった。外国語の案内がなさすぎて、バスに乗ることそのものが怖かった」と振り返った。エンニさんは「大海原に一人落ちた気分だった。周りの(在韓)外国人の友人に、地方を観光した人がなぜ一人もいないのか分かった気がする」と話した。

 ピエールさんはまた、旅行前に扶余行きのバス乗車券をインターネットで購入しようとしたが、できなかったとも話した。実際、高速バスや市外バスのオンライン予約は韓国語サービスしかない。韓国国土交通部(省に相当)は今年6月にようやく、高速バスの外国語予約・決済システムを2017年3月までに構築すると発表した。

 専門家は、各地方自治体が外国人のための基本的な観光インフラを構築すれば、観光客をもっと呼び込めると助言する。韓国文化観光研究院のクォン・テイル博士は「地方のKTX(韓国高速鉄道)駅と観光地を循環するツアーバスを導入するだけでも、外国人客の誘致に大きく役立つだろう」と指摘している。

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