少し前、ある日本企業の創立記念行事に招待されて講演をした韓国の元経済官僚に聞いた話だ。世界各国に進出している海外支社長たちを含め、その会社の役員約100人を前に、世界経済がどのように動き、その中でどんな未来戦略が助けとなるかをアドバイスしに行ったのだが、逆にその会社に学んだことが多く、印象深かったと教えてくれた。

 その会社とは、偏光フィルムなどを製造している日本の化学企業「日東電工」だ。昨年の売上高は約8252億円。日本では売上高100位以内に入らないが、世界最大シェアの品目を持つ会社だ。創立97周年を祝い、創業の地にR&D(研究開発)センターを建て、今後の100年に向けてさらなる革新に備えていることに驚いたそうだ。

 草創期に絶縁テープを製造、現在は液晶表示装置(LCD)用偏光フィルムから犬の毛を取るテープに至るまで、約1万3000種類もの製品を手掛けている。ありとあらゆる製品に手を出しているように見えるが、実はこの会社の技術力はたった二つに集約される。フィルムと、そのフィルムを貼る接着剤だ。この技術を開発し続け、時代に合わせ随所に応用、世界のニッチ市場でグローバルな技術力を誇る「ニッチトップ(Niche Top)」になった。

 以前は日立の関連会社だったが、日本の不況期に独立、オーナーもない。それでも97年間の歴史で会長は10人だけだ。一番実力のある選手を選んでリレーに出場させるように、現会長が役員の中から次期会長候補を選んで社長に任命するというやり方で「100年企業」になった。この会社の初任給は日本の銀行員の初任給よりも高い月30万円台。45歳を過ぎると成果により給料が変わるのは当然だと受け入れる企業精神もある。

 その元官僚はアベノミクスが成功したと騒ぐ声にあまり感じることがなかったが、この会社を見てからは「優れた技術力は言うまでもなく、実用的能力主義が定着した賃金体系と合理的な継承の精神はうらやましい。韓国でもああいう会社が増えてこそ、韓国経済の未来があるのではないだろうか」と言った。

 アベノミクスに触発された日本経済の復興は、単に円安・金融緩和でもたらされたわけではない。それらが起爆剤であることには違いがないが、20年もの不況の中で手堅く構造改革をしてきた、技術力のある日本企業が支えているからこそ可能になったのだ。

 それに比べ、最近の韓国経済の実績はあまりにも憂鬱(ゆううつ)だ。政府が金融緩和し内需に目を向けたことから7-9月期の成長率はこの5年間で最高となったが、造船3社が巨額の赤字を出すなど、韓国の主力産業には次々と赤信号がともっている。現代重工業が十数年前、スウェーデンのマルメにあるコックムス造船所をたった1ドル(約120円)で買収した「マルメの涙」の悲劇が、今度は韓国の悲劇になってもおかしくない状況だ。「サムスンが日本のソニーを抜いた」と歓喜してからたった数年で、中国の小米科技(Xiaomi)が韓国のサムスン電子を抜く日も目前に迫っている。若者の失業だけが問題なのではなく、製造業の競争力と原動力自体が低下している。

 2008年の世界金融危機から7年。世界経済は長期不況に入り、危機の中でまた勝者と敗者に分かれている。危機の主犯・米国はドルの強さを武器に真っ先に回復した。中国経済は高速から中速へとスピードを落としたが、これまで築いてきた経済力をもとに米国と肩を並べている。

 世界金融危機に比較的うまく対処した韓国だが、その「うたげ」はあまりにも短く終わった。韓国経済は国際的な不況に国内の体質改善の遅れが重なり、一足遅れで長いトンネルに入っている。政府はあれほど先延ばしにしていた企業の構造改革を今になって声高に叫んでいるが、どれだけ実践できるかは疑問だし、政府と銀行が危ない企業を数社廃業させたからといって、競争力が復活するわけでもない。根本的な見方をすれば、20年前の日本の後を追っているような今の韓国は、長期不況という氷河期を耐え抜いた日本企業を徹底的に研究してそこから学び、再び経済力を付ける必要があるだろう。

 来月2日には朴槿恵(パク・クンヘ)政権になって初の韓日首脳会談が行われる。両国は今年、国交正常化50周年を迎えた。考えてみれば韓国はこの50年間の経済成長も、「克日(日本に勝つこと)」を目標に、日本に学びながら成し遂げてきた。だが、対日貿易ではこの50年間で黒字だった年がない。日本は依然として、韓国が歯を食い縛って学んででも勝たなければならない相手なのだ。歴史問題も重要だが、朴槿恵大統領には、50年前に父親の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領(当時)が全国民の激しい反対を押し切って韓日国交正常化を強行した時の苦悩や実利戦略を振り返り、より大胆かつ柔軟に両国関係を解きほぐしていってほしい。

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