コラム
【コラム】「自分だけは清廉」卑怯な韓国政界のボスたち
韓国の大統領やその候補になるような人間たちは、本当に「自分だけは清廉潔白なまま今の地位に上り詰めた」と考えているのだろうか。あるいは「君王は無恥」と考えているのだろうか。
2011年10月、当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領は大統領府で開催されたある会議で「この政権は資金提供を受けず選挙を戦って誕生した。道徳的には完璧な政権だ」と発言したが、この言葉は後から全くのパロディー、あるいは笑いのネタになった。直後に実の兄や側近など、李大統領のいわゆる「メンター(優れた助言者)」の立場にある人物が次々と身柄を拘束されたからだ。李大統領が当選した07年の大統領選挙は、選挙戦の序盤から勝敗がはっきりしていたため、確かにこれまでの大統領選挙の中では最もカネが掛からなかった。それでも公にできない巨額の資金が使われたのは確かで、これは選挙陣営の関係者なら誰でも知っていることだ。
それは今の朴槿恵(パク・クンヘ)政権もさほど違いはない。朴大統領もその周辺の人物たちも、機会があるたびに自分たちだけは清廉潔白であるかのように語っている。例えば金淇春(キム・ギチュン)前大統領秘書室長は辞任する直前の会議で「この政権はこれまでで最も清潔な政府だ」と発言しており、また朴大統領と近いいわゆる「親朴」と呼ばれるグループの複数の幹部も「われわれがポケットマネーを全て出し合って選挙を戦った」と語った。このように現政権の関係者の多くが、この種の誰も信じない言葉を今も堂々と口にしているわけだが、朴大統領本人に至ってはこの信念がさらに固いようだ。建設会社前会長で元議員の故・成完鍾(ソン・ワンジョン)氏が、朴大統領の8人の側近に多額の現金を渡したと書き残したいわゆる「成完鍾メモ」について、朴大統領は今月15日「不正腐敗に責任のある人間は誰も許されないし、国民はそのような人間を許さないだろう」と発言した。ところがこの発言について野党はもちろん、与党からも「まるでひとごと」などと非難する声が相次いでいる。
野党・新政治民主連合の文在寅(ムン・ジェイン)代表も朴大統領に対し「ひとごとのようにコメントできるような問題ではない」とした上で、朴槿恵政権の正統性と道徳性を問題視した。しかし文氏が「ひとごと」とコメントするのも非常に引っ掛かる。文氏は2012年の大統領選挙では野党候補として選挙戦に臨んだが、その当時「われわれは(盧武鉉〈ノ・ムヒョン〉大統領が当選した)02年の大統領選挙の際、『希望の豚貯金箱』の配布により過去のどの選挙よりも清潔に選挙戦を戦った」「どの政権よりも道徳性に優れた政府だった」などと発言している。盧武鉉元大統領も大統領選挙直後、この「豚貯金箱」について「私は国民から受け取った寄付で選挙を戦った。一切の疑惑のない候補者だ」と語っていた。ところが選挙後、盧武鉉陣営の責任者だったある人物は「豚貯金箱で得た選挙資金は4億5000万ウォン(現在のレートで約5000万円、以下同じ)しかなかった」と暴露した。その後04年に検察の捜査で明らかになった盧武鉉陣営の選挙資金は113億ウォン(約12億円)に上っており、また盧武鉉元大統領が生活していた大統領府にも不正な資金が流れ込んでいたことも明らかになっている。
朴大統領の陣営は2012年の大統領選挙で479億ウォン(約52億5000万円)、文在寅候補陣営は485億ウォン(約53億1500万円)を使ったとすでに選挙管理委員会に報告している。しかし政界関係者はこの数字が正しいとは誰も考えていない。あれほど巨大な組織と数多くの人間が選挙に勝つため全国各地を飛び回り、そこで食事し、大々的に広告や宣伝を行っていたのは動かぬ事実だが、両陣営のボス、つまり大統領やその候補者たちは、それらの資金がいったいどこから出たと考えているのだろうか。
それ以前の大統領選挙では、彼らボスたちが政治資金を集めてこれを下部組織に渡していたため、問題が生じればボスたちが全ての責任を負った。ところが今のボスたちはある意味とてもひきょうになっている。彼らは「絶対に資金の提供を受けるな」と言い、その下の中間ボスたちは「資金は常に必要だ」と言う。数十億から数百億ウォン(数億-数十億円)規模の資産家でもなければ、中間ボスたちや実務担当者らは誰かから資金提供を受けるしかないが、もしそれによって問題が表面化すれば、その責任は彼ら自らが負っている。ところがそれでも一番偉いボスは「自分は清廉潔白」としらじらしく口にする。
かつてのボスたちは、本心は知る由もないが、取りあえず口では「自分の下で起こった問題は、全て自分の不徳の致すところ」程度の言葉は語り、最初からしらじらしい責任逃れはしなかった。このように今のボスたちも「自分だけは清廉潔白」などと言わないでほしい。本当にそう思っているなら救いようのない無能であり、知っていて語っているならどうしようもない偽善者になるからだ。