今月25日、ソウル市江北区で道路のマンホールのふたを開け、40年前に作られた下水管の中に入ってみた。内部は想像していた以上に古くなっていた。セメントで作られた壁はひどく老朽化し、まるで土のようだった。同行した安全診断業者の社員が長い金串で壁をひっかくと、壁面はぼろぼろと崩れた。セメントの壁の中にある鉄筋は赤くさび付き、あちこちで壁の外に突き出し、その間をゴキブリが這い回っていた。圧巻だったのは、樹皮のように垂れたセメントの天井だった。コンクリート製の巨大な天井の破片が剥がれ、さびた鉄筋にぶら下がっていた。天井のすぐ上の道路を車が通るたび、下水管の中にごう音が響いた。

 その瞬間、ドキュメンタリー番組『人類滅亡-Life After People』が思い浮かんだ。コンクリートと鉄筋で作られ、あたかも永遠に存在し続けるかのような造形物も、人類消滅後に放置されてしまったら結局は崩れ落ちるということをコンピューター・グラフィックで描く番組だ。そのドキュメンタリー番組が今すぐにでも現実になりそうだった。また、新たなシンクホール(地盤沈下による陥没穴)事故が次々と発生するのは時間の問題のように思えた。

 実際、ソウル市では大小のシンクホールが毎年680件も発生している。このうち85%は古くなった下水管が原因だ。

 問題は、この古くなった下水管が「地下」にあるということだ。選挙で選ばれる自治体の首長は、目立つ建設公約や無償福祉公約なら次々と「アメ」を出すが、目につかない地下の下水管を修理することにはさして関心を持たない。最近では、無償福祉予算が幾何級数的に増えているせいで、各自治体が今すぐ対応すべき古い下水管の改修・補修費用を工面するのも難しい。

 韓国政府の政策も、優先順位があべこべなせいで市民の安全が後回しになっている。韓国政府は、受益者負担の原則に基づき、下水道の改修・補修業務を自治体に押しつけている。古い下水管の改修・補修に投じられる費用を韓国政府が国庫から支援する割合(広域市10%、道庁所在地20%、一般地域30%)は、下水管を新たに敷設する際に国家から支援する割合(広域市30%、道庁所在地50%、一般地域70%)に比べ低い。そのため各自治体は、少しでも国庫から支援を得ようと、古い下水管の改修・補修より新たな下水管の敷設にばかりこだわってきた。

 こういう理由で、きちんとした改修・補修もなされぬまま、都心の下水管が40年、50年と老朽化してきた。今になって、そのギリギリの状況がブーメランのように「シンクホール」という恐怖となって現れている。政策の優先順位を調整し、急いで対策を整備しなければ、すぐにでもどこかで市民の足元にぽっかり穴が開くことになる。

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