コラム
【コラム】怒りの韓国社会、上流層と高学歴層が問題だ
「今年1年を通じて私が汚い言葉を使って皆さんを傷付けるようなことがあったとしたら教えてください」
昨年の忘年会で出会った50代の企業家は、従業員にこう言ったという。大韓航空の趙顕娥(チョ・ヒョンア)元副社長の「ナッツリターン事件」とソウル市響のパク・ヒョンジョン元代表の暴言が話題となっている時期だった。従業員たちは「そんな言葉はなかった」と話した。すると、その企業家は1人五つずつ書くように言った。この企業家は、オフィスで従業員を叱り付けることが多かった。そこで今回のことをきっかけに従業員とのコミュニケーションの方法を変えようと考えたのだ。
ある40代の専門職の女性は最近、銀行やデパートへ行った際には以前よりも言葉遣いに気を付けている。従業員たちは「神様のようなお客さま」に対して常に優しく接するが、だからと言って自分も従業員に対して命令口調で接しては「上から目線」と言われるのではないか、と神経を使うというのだ。
ナッツリターン事件と一連の「甲乙問題(強い立場の『甲』が権力を利用して弱い立場の『乙』に横暴な振る舞いをする問題)」で拡大した怒りは、韓国社会のさまざまな組職のリーダーや中間管理職にとって半面教師の役割を果たしている。本人は意識していなくても、頭に来て行き過ぎた発言をしていた可能性があると考えるようになり、これまでの発言と行動をチェックしたという人はかなり多い。
2014年の韓国は「怒りの社会」だった。セウォル号の事故で罪なき多くの人々が命を落としたことに始まり、韓国軍での兵士集団暴行死事件、高位公職者によるわいせつ事件、大学教授たちによるセクハラ、ナッツリターン事件へと続き、怒りが増幅されていった。セクシャルハラスメントとパワーハラスメントがもつれて発生した。
一般人を奈落の底に突き落とし、カッとさせた事件の主人公は、そのほとんどが「社会的に地位のある人」「学歴の高い人」だった。いい大学を出て難しい試験に合格し、留学して博士号を取得し、優良企業で働き、名門の家柄や財閥の血筋として生まれ、裕福に育った人々だった。世の人々が「このうち一つでも持っていれば」と思う条件をいくつも兼ね備えたエリートたちだった。結局、韓国社会の「上流層」と「高学歴層」が問題だったのだ。
ソウル大学心理学科の郭錦珠(クァク・クムジュ)教授は「2014年の韓国国民の感情は一言で言って怒り」と断言する。一時は「恨」だったし、一時は他人がうまくいくと腹が痛くなるという心理だったが、最近は断然「怒り」だという。よって、これまでは聞き流していたことも、最近ではちょっと触れるだけで炸裂するような危険な状況にまで膨らんでしまうと指摘する。
怒りは伝染しやすく、上から下に拡大する傾向がある。上司に八つ当たりするケースはほとんど見られないためだ。しかし、誰にでも上下関係はあるわけで、怒りは社会全体に拡散する。仁済大学ソウル白病院精神健康医学科のウ・ジョンミン教授は「怒りほど短時間で拡大する感情はない」という。人は、幸せな人を見れば幸せになり、怒っている人を見れば自分も怒ってしまうが、幸せな感情は徐々に拡大する一方で、怒りの伝達速度は急速に上昇する。
昨年は怒る事が多く、膨大な国民的エネルギーを消耗した。しかし、怒りが決して否定的な感情というわけではない。正当な怒りは変化のためのきっかけや推進力になる。悲しみが恨みの解消として終わり、怒りが腹いせとして終わってしまってはいけない。一年で起こったことはきれいに忘れて新年を迎えよう、という言い方はしたくない。2015年は、市民を怒らせた多くの事がどのように変わるのか、目を見開いて見守らなければならない。「上流層」と「高学歴層」がどのように変わるのか、韓国社会を見る上での重要なポイントとなりそうだ。