「ノーベル賞筆頭候補」ともてはやされていた、日本の理化学研究所の小保方晴子・研究ユニットリーダー(30)が、わずか40日にして「パクリとでっち上げのインチキ研究者」へと転落した。

 小保方氏が今年1月末、英国の国際学術誌「ネイチャー」に発表した「STAP細胞」は、通常の細胞を弱酸性の溶液に浸す程度の簡単な操作だけで、体内のあらゆる組織に変化する万能細胞だ。「生物学の常識を覆す大発見であり、医学の画期的な進歩をもたらす可能性がある」と評価された。首相をはじめとする日本の政治家たちが先を争うように賛辞を送り、研究に対する支援を約束した。実験室では白衣の代わりに、祖母が着ていたというかっぽう着を着用し、徹夜で研究に打ち込んでも必ず化粧にスーツ姿で出勤するという逸話が紹介され、まるでアイドルのような人気者になった。

 ところが、その栄光はあまりにも短かった。論文を発表した直後から、データを改ざんしたとして論議を呼んだ。大学院時代の博士論文で盗作を行っていたとの疑惑も浮上した。2011年に早稲田大学に提出した博士論文の細胞の写真が、インターネットに出ている試薬宣伝用の写真を転載したものだったほか、米国国立衛生研究所(NIH)のウェブサイトの内容を丸写ししていたことも分かった。日に日に疑惑が深まる中、理化学研究所は14日、論文についての調査の中間報告を行った。

 理化学研究所の調査の結果、STAP細胞の写真の一部に改ざんがあったこと、STAP細胞の実験と、別の実験によって作成された胎盤の写真2枚が実際には同じだったこと、STAP細胞が体内の組織に変化したことを証明する3枚の写真が、小保方氏の博士論文の写真と同じだということが確認された。STAP細胞の実験方法を説明した内容は、2005年にドイツで発表された別の研究者の論文から盗用していたことも分かった。STAP細胞の存在自体を否定する調査結果というわけだ。

 理化学研究所が調査を行ったのは、共同研究者14人のうち、研究を主導した小保方氏など8人が同研究所に所属しているためだ。同研究所の野依良治理事長は、14日の記者会見で「科学界の信頼を揺るがす事態を引き起こしたことについておわびする」と頭を下げた。野依理事長は、ノーベル化学賞を受賞した、日本を代表する科学者の一人で、科学をめぐる倫理の確立を強調してきた。

 だが、理化学研究所はこの日、論文の撤回については発表しなかった。論文の撤回は共同研究者全員の同意が必要だが、共同研究者の一人である米国ハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授が反対しているためだ。小保方氏がハーバード大留学中に師事したバカンティ教授は、今でも小保方氏を信じているという。

 「ネイチャー」の論文は、14人の共同研究者がSTAP細胞の作成、同細胞の存在を確認する調査、同細胞が体内の組織に変化したことの確認といった役割を分担することでできあがったものだ。研究の中心となるSTAP細胞の作成は小保方氏が担当した。

 バカンティ教授を除く共同研究者たちはすでに、論文の撤回に同意しており、全ての責任は小保方氏にあるとしている。小保方氏がほかの細胞を「STAP細胞」に仕立て上げたとすれば、それを確認する方法はない、と共同研究者たちは主張している。

 一方、小保方氏は調査の過程で「STAP細胞は存在する。一部のミスはあったが、捏造(ねつぞう)したことはない」と主張した。論文の盗用については「よく覚えていない」とし、また写真の改ざんについては「明るさを調節し、鮮明な画質を得るためであって、不正行為ではない」と述べた。論文の通りにSTAP細胞を作成しようとしても、同細胞が生成されないという主張に対しては「実験のノウハウを知らないからだ」と反論した。

 だが、今回の事件で、日本の生命科学者全体に対する信頼性が揺らいでいる。京都大学の山中伸弥教授が2012年、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の研究でノーベル医学・生理学賞を受賞するや、日本政府は「生命科学を成長産業として育成していく」として、大々的な投資計画を発表した。ところが同年、東京大学の研究員を自称する森口尚史氏が、iPS細胞によって心臓手術を行ったと嘘の発表をするなど、スキャンダルも相次いでいるため、これに関する研究に対し国民の不信感が高まっている。

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