▲朴正薫(パク・チョンフン)デジタル担当副局長

 日本の福島原発沖で取れたタコが東京のスーパーマーケットに並んだ。2011年3月の津波被害以降、中断されていた販売が再開されたことになる。5キログラム入りの箱には「福島産」という文字に加え、「放射能無検出」という表示が付いていた。安値での投げ売りではなく、正常な価格での販売だった。それでも販売が開始されるや、すぐに売り切れたという。日本人はそれほど心臓が強いのか。放射能の類いは怖くないというのか。

 先日、ソウル市内の光化門政府総合庁舎近くの食堂に入ると、予想外の出来事を経験した。メニューにある魚の煮付けを注文したところ、できないという。客が魚を不安がるので、メニューから外したというのだ。女性経営者は「青瓦台(大統領府)の食堂も魚を外したらしい」と話した。来店した大統領府職員から聞いた話だという。放射能をめぐる「怪談」に「青瓦台バージョン」まで登場したことになるが、それは事実無根だ。

 韓国には福島原発周辺で取れた水産物は輸入されていない。他の日本の農水産物も徹底した放射能検査を行った上で輸入されており、安全性には問題はないと考えるべきだ。しかし、魚は売れず、刺身料理店は閑古鳥だ。これまで聞いたことがないようなさまざまなデマも飛び交っている。日本産だけならまだしも、放射能とは関係ない韓国産の水産物まで避ける現象をどう考えればよいのか。韓国が過敏なのか、日本が鈍感なのか。

 福島原発事故は東京電力と日本政府のよる対応のまずさが事態を悪化させた人災だった。原発の炉心がメルトダウンしたため、現在も数十万人が避難生活を強いられている。韓国でこんなことが起きれば、恐らく大混乱が起きていたはずだ。数十人が刑務所行きとなり、責任者探しに国中が騒然としたに違いない。

 福島の住民は1年前、原発事故の責任者には業務上の過失があるとして、約40人を告訴した。しかし、その捜査結果に世界が驚いた。日本の警察による結論は「全員嫌疑なし」だった。津波被害は予見が難しい自然災害であり、刑事責任は問えないというものだ。史上最悪の原発事故だが、処罰を受けた人は全くいない。われわれの常識では考えられない事実だ。

 安倍首相は原発の放射能を完全にコントロールしていると豪語した。しかし、福島では現在も1日に300トンの汚染水が海に漏れている。完全なコントロールどころか、放射能遮断システムの至る所にほころびが見られる。これが韓国だったならば、民衆による反乱レベルの国民的抵抗が起きていただろう。牛海綿状脳症(BSE)をめぐるどうしようもないデマだけで、国が騒然としたわれわれだ。

 日本では東京電力が石を投げられることも、安倍政権が不信任を突き付けられることもない。海外への移民が増えたという報道もない。ただただ日本政府による「放射能無検出」という発表を信じて見守っている。不平も抵抗もなく、政府の指図に従う日本人を見ていると、鳥肌が立つ。良く言えば恐ろしいほどに冷静で、悪く言えば嫌気がさすほどいらだたしい。

 日本の沈着冷静さがうらやましくもあるが、それは良いことばかりではない。あいまいにやり過ごしたせいで、事態が長期化する結果を招いたからだ。東京電力が事実を隠蔽(いんぺい)する態度を改めないのもそのせいだ。日本政府は2年間、事故収拾を放置したまま、高みの見物を決め込んでいる。その結果、いまだに放射能問題を解決できず、周辺国に迷惑をかけている。

 日本人だって不安でないはずはない。しかし、どうせ国を離れるわけにはいかないのだから、耐え忍んだほうが賢明だという判断であるはずだ。今の日本社会では、放射能の恐怖について言及することがタブーになっている。日本のメディアもほとんど報道しない。放射能の話を切り出せば、国益に不利だという日本特有の自主規制システムが作動するのだ。

 数日前、韓国の尹珍淑(ユン・ジンスク)海洋水産部長官が記者団との昼食会で、日本を「不道徳な坊やたち」と呼んだ。放射能に関する資料を適切に提供しない日本を批判したものだ。その言葉は正しい。周辺国を不安に陥れておいて、十分な説明をしようとしない日本政府はそれこそ無責任だ。

 ところが、尹長官は言ってはならないことまで言ってしまった。韓国の食品医薬品安全処が「データ(放射能測定値)に問題がないのに、(日本産水産物に対する輸入禁止措置を)どうするのか」との立場を示したと漏らしたのだった。日本を「坊や」呼ばわりする外交には不適切な表現まで使った。昼食の席でのやりとりだが、大部分の韓国メディアはそれをそのまま報道した。日本のメディアだったならば、きっと報じなかっただろう。

 どちらが正しいのかは分からない。冷静な日本と直情的な韓国は、火星人と金星人ほどの違いがありそうだ。その中間程度ならばちょうど良いのにと思う。韓国は興奮し過ぎで、日本はあまりに静か過ぎる。

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