話題の一冊
日本の敗戦後、芸者のヌードを描いていた英親王・李垠
「日本の敗戦と帝国の滅亡で、地位・職業・財産など生きる土台を失った李垠(イ・ウン)は、女性のヌードを描くという極めて特異な趣味生活に溺れた。実際にヌードモデルを前にして直接見ながら描いたもので、李垠の邸宅の近くにあった高級料亭の芸者がモデルだった」(320ページ)
小説家で歴史家の宋友恵(ソン・ウへ)=65=が、朝鮮王朝の最後の皇太子・李垠(1897-1970)の生涯を描いた長編小説「最後の皇太子」シリーズ(全4巻、青い歴史社)の最終巻となる第4巻『平民になった王・李垠の天下』を出版した。綿密な資料調査を土台にした興味深いドキュメンタリー小説で、2010年12月に『醜き尚宮厳氏の天下』など3巻を続けて出版して以来、およそ1年ぶりとなる完結編だ。第4巻では、英親王・李垠や徳恵翁主など、朝鮮王朝最後の顔触れが歴史の舞台の後ろに消えていく風景が物寂しく描かれている。
李垠の裸婦画も、そうした風景の一幕だ。「持っていた金がなくなると、李垠は動産や不動産を一つ一つ処分していき、無力に没落」していく中、裸婦画に興味を抱くようになったという。李垠の画室は高級料亭、モデルは芸者だった。
李垠が料亭に行き、酒を並べて朝から晩まで芸者のヌードを描いていると、李方子(イ・パンジャ)夫人(1901-89)が酒代を持ってやって来て、李垠を連れて帰ったこともあった。現在公開されている裸婦画は、45年作の1点と、55年作の2点。李方子夫人は、夫が芸者のヌードを描くという事実を、王族の品位を損なうことだと考えていたという。
夫人の見解を尊重しながら生涯を過ごした李垠が、なぜ夫人がそれほど嫌うヌードを描き続けたのか。宋友恵は「自分の思い通りにならない生涯に対する不安と恐怖、ストレスから逃避したいという思いと、そんな生涯の苦痛を受け止めて慰めてくれる原初的な女性性に対する憧れが、複合的に作用したのではないか」と分析している。