京セラグループの稲盛和夫名誉会長

 「資本主義は今、転換点に立っている。価値ある商品を作って売る本来の機能が崩れ、カネがカネを稼ぎ、上位1%(の富裕層)が富の大半を持っていく状況を見るにつけ、今までの資本主義が正しかったのかどうかという反省の声が出るのは当然のことだ」

 京セラグループの稲盛和夫名誉会長(80)は1日、本紙との単独インタビューに応じ「資本主義は欲望を原動力として発展したが、そこには節制が必要だ」と強調した。稲盛会長は、松下幸之助氏、本田宗一郎氏と並び、日本で最も尊敬を集める企業経営者に数えられ、「経営の生き神様」とも呼ばれている。

 「仏様は『満足を知れ』と仰せになった。人間の欲望には限りがない。それで発展もするが、破滅につながることもあるという点を肝に銘じなければならない。人間の欲望自体を否定するわけではないが、それを節制し、他人の幸福のために働く利他心と愛へとベースを少しずつシフトすべきだ。資本主義の問題を正すため、法律と規則を変えることも重要だが、最も重要なのは人間の心だ」

 稲盛会長の経営哲学は「慈悲」という言葉に要約される。稲盛会長はかつて頭を丸め、仏門に入ったこともある。インタビューの内容は仏教の説法のように厳粛なものだった。質問をすると、稲盛会長は目を閉じ、深く考えた末に答えることもしばしばだった。

―韓国では大企業が(地域コミュニティーの)パン屋にまで進出して批判を受けている。

 「どんなこともカネを稼げばよいという具合に考えては困る。利益を追求するが、正しいことをするという道徳観を持つべきだ。仏の言葉のように、欲を抑え、満足を知るべきだ。ライオンも満腹になれば狩りをしない。腹が満たされても狩りをするのは人間しかいない」

―(投資家の)ウォーレン・バフェット氏がいわゆる「バフェット税」の導入を主張するなど、世界的に富裕層への増税を図る動きがある。

 「バフェット氏がそう語ったことは本当に立派で格好いい。持てる者がより負担することは、今の社会の流れに照らして当然と考える。野田首相が消費税増税、富裕層の所得税増税を打ち出し、世論の強い批判を受けている。最近総理に会い『良いことだ。勇気と決意を持って進めるべきだ』と助言した。私も税金を余計に支払う対象になるだろうが、時代の流れから見て必要ではないか」(編注:稲盛会長は民主党が野党だった時代から支援している)

―税金をたくさん取られれば、働く意欲を失いはしないか。

 「欲求を満たすことは、人間にとって直接のエネルギー源になるが、社会のために貢献し、支援を行うことも大きなエネルギー源になる。富裕層は単純にカネをたくさん稼いで得る満足感よりも、他人に施して得る満足感の方が大きい。心が豊かになり、仕事もより一生懸命するようになる」

―企業にとって利益が優先されるか、社会的責任が優先されるか。

 「言うまでもなく利益だ。利益を出せずに赤字ならば、社会に貢献するどころか弊害になる。不渡りを出せば、従業員の給与を支払えず、多くの人が失業し、社会の助けを受けることになる。ただし、稼いだ利益をどう配分するかという点で社会的責任を果たさなければならない」

 稲盛会長は、経営破綻で会社更生法の適用を受けた日本航空にリリーフ役として投入され、2年間会長を務めた。黒字転換を果たし、先月17日に同社の名誉会長へと退いた。

―月給を受け取らず、頭の痛い仕事を引き受けたのはなぜか。

 「日本政府から何度も要請があり、全く分からないことなので最初は辞退した。しかし、日本航空があのまま倒産すれば、経済も大きな影響を受けると思い、引き受けることにした。日本の産業の象徴でもあり、従業員数万人の雇用に関わることでもあったからだ。私は高齢で、1週間に3日間だけ時間を割けるが、月給はいらないと言った。家族、親戚、知人の全員が反対した」

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