結局、乙巳条約は、高宗や大臣が誰も明確な賛成・反対を表明せず、決定も下さないまま、日本の圧力によって締結された。しかし、興奮した世論は、学部大臣の李完用らを「乱臣賊子」(人としての道を外れ、悪事をはたらく者の意)と見なした。続いて起きたハーグ密使事件の後、状況は韓国併合まで突き進んだ。  著者は「李完用の行為が売国であることは否定できない」と述べながらも、李完用が売国の頂点に立つことになった背景に触れた。当時、最終決定権者だった高宗は、時代が要求する政治改革は避けながらも、外部勢力を別の外部勢力でけん制するという危険な綱渡りを行った。表向きは日本に順応しながら、裏では反日政治官僚を通じ、秘密外交を行っていた。著者は、表のラインで王室を忠実に守ることが、李完用の役割だったと解釈した。  李完用は、与えられた状況の下で最大限の成果を考える現実主義者だった。乙巳条約を締結せざるを得ないなら、可能な部分については修正を求め、韓日併合が不可避なら、得られるものを得ることに尽力しなければならないというのが、李完用が考える「合理」だった。  著者は、これまでの李完用に対する評価は「欲深い個人」で固まり、その個人をめぐる関係の力学が看過されていたと指摘した。「当時、大韓帝国の政治構造に“関係する”李完用が消えた瞬間、構造の中で批判されるべきものが救済された。大韓帝国の政治システム、政治関係の総括者としての高宗、大韓帝国の世論を率いた知識人たちの妥協…」  李完用の生涯は「近代的合理性が極端な時代と出合ったとき、いかに発現し得るか」を示すケースだ。著者は「李完用は、単に“売国奴”としてではなく、“不条理な現実に怒ることを知らない”または“それを克服しようという人々が叫ぶ価値観に呼応することを知らない”人物として批判されなければならない」と指摘した。  著者は、本書の冒頭で「排除された他者の封印を解いてみたかった」と記した。封印が解かれた後、読者が見ることになるのは「他者」ではなく、まさしく自分たちの一部だ。本書は、ハンギョレ新聞社の子会社、ハンギョレ出版と、釜山大学の研究所が共同企画した「歴史人物評伝」の最初の成果だ。316ページ、1万6000ウォン(約1200円)。

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