「怒りが道徳に勝った」――。 野党が初めてこれほどの圧勝を収めた今回の韓国総選挙の結果について、翰林大の宋虎根(ソン・ホグン)碩座教授は11日、本紙の電話取材にそう答えた。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と政府の独善的な政治に対する怒りが非常に大きかったため、道徳性が論議が呼んだ野党候補まで当選する結果になったとの指摘だ。学識者は今回の総選挙の結果から韓国社会の「モラル低下」「反権威主義傾向の拡散」「主流勢力が変化する兆し」など大きな変化が読み取れると話した。既存の保守理念に固執しない「自由主義的保守」を取り込めなければ、保守政党の衰退は必然的だというのだ。
【グラフィック】与党・国民の力 洛東江ベルト・漢江ベルトでは議席増
■政府に対する怒り、候補の道徳性超えた
韓神大の尹平重(ユン・ピョンジュン)名誉教授は「今回の総選挙で明らかになった道徳性の崩壊は非常に危険なシグナルだ」と話す。「李在明(イ・ジェミョン)民主党代表と曺国(チョ・グク)祖国革新党代表を含め、さまざまな偽善と暴言が明らかになった人々が免罪符を受けたような形になったことは嘆かわしい」と述べた上で、「一般人の常識レベルに劣る人物が大挙して国会入りする状況は、韓国社会をアノミー(無規範状態)とみる根拠になる」とした。
しかし、尹教授は「権威主義的統治スタイルに終始した尹錫悦大統領もその責任から逃れることはできない」と述べた。「梨花女子大生性上納」発言の金俊爀(キム・ジュンヒョク)氏が出馬した京畿道水原丁選挙区では無効票が4696票に達したが、彼らは金候補の過去の発言に失望しながらも、最後まで与党に投票しなかったと考えられる。こうした状況で国民の力の韓東勲(ハン・ドンフン)非常対策委員長は「犯罪者に国を任せることができるのか」と発言したが、「正しいことを言っても訴求力が低下した」ことになる。
一方、宋虎根教授は「非常におかしな状況ではあるが、これを『道徳性の崩壊』とまでは言えない」と話した。30代から50代までの有権者が非道徳的なことを擁護したのではなく、社会的均衡を取れない政権層に対する反発が彼らの心中で上回ったとの指摘だ。宋教授は「政府・与党は鋭敏になれず、人々の心を読むこともできず、怒りを受け入れようとする努力はほとんどなかった」と話した。慶南大学の沈之淵(シム・ジヨン)名誉教授は「政権審判論という嵐が吹く中では、道徳性問題は『枝葉』程度のことと考えられ、吹っ飛んでしまった」と分析した。
ソウル大政治外交学部の朴元浩(パク・ウォンホ)教授は「今回の総選挙が二極化した政治環境の中で、地方選挙ではなく全国選挙として行われた要因もある」と述べた。個人の道徳性問題や暴言など地方区の問題は、国家レベルの政治や党中央の判断より相対的に軽視されたとの見方だ。
■「反権威主義」傾向の拡散
沈之淵教授は「実は権威主義的な態度を見せたのは政府・与党も野党も同じだったと言えるが、今回は人々が政府・与党を『より大きな権威主義』だと感じた」と話した。過去の経済成長期に国民の暮らしが改善した当時は権威主義的指導者も容認したが、現在のように庶民が経済的困難に直面している時代にはそれは望めない。
尹平重教授は「今の50代までは『先進国民』という自意識を持っているが、検察特有の上意下達文化、抗議スローガンを叫んだ人に対する『口封じ』、『ネギ騒動』を見て、彼らは果たしてどんな思いを持つだろうか」と話した。現政権は外交安保パラダイムを革新し、脱原発を撤回するなどの業績を成し遂げたにもかかわらず、国民的な反感に埋もれてしまったとの分析だ。尹教授は「最も嫌いなのが『権力者の傲慢』だという国民意識の変化を大統領と政府が全く受け入れられずにいる」と現状を説明した。
■保守と革新の均衡軸崩壊…自由主義的保守の離脱
今回の総選挙の結果を巡っては、「保守と革新によるこれまでの均衡が崩れていることを示した」という分析も聞かれる。朴元浩教授は「最近の総選挙は保守政党の支持基盤が縮小する方向で行われてきた」と話した。韓国の保守勢力でとても重要なグループは規制緩和を望む「自由主義的保守」と言えるが、彼らが2016年ごろに離脱し、それが朴槿恵(パク・クンヘ)元大統領の弾劾につながった。朴教授は「2022年の大統領選では彼らが再び尹大統領を支持したが、今回再び離脱した。与党にとっては、今後彼らをどう取り込むのか考えることが必要になる」と話した。
宋虎根教授は「今の30代から50代は基本的に革新側に信念が形成された世代だ」とした上で、「経済成長の恩恵を特権層が独占したという認識を持っており、彼らを取り込むことができなかったことが与党敗北の大きな要因だ」と話した。また、「特別検事法を拒否し、政治的報復に執着するような大統領の行き詰まった姿を見て、彼らの忍耐心は限界を超えたとみられる」と分析した。30代から50代が全て革新傾向になったと言うよりも、大統領と政府が彼らが進歩に傾くように統治を行ったということだ。
嶺南大の金英寿(キム・ヨンス)教授は「韓国の現代政治史を形成したのは、1948年の政府樹立と1987年の民主化だったが、今回の選挙で『48年体制』と『87年体制』の重要な理念がすべて崩れたと考えられる」と述べた。「48年体制」は保守が国家を導く勢力になり、「87年体制」は産業化・民主化勢力が妥協しつつも共産主義勢力を排除したものだが、今回の選挙では「従北勢力が比例代表として(国会に)入ることになり、それが崩れた」と指摘した。
金教授は「革新陣営は今回の選挙で圧勝することによって、事実上行政権力を無力化し、司法府も機能不全状態にして、韓国の主流勢力として深く根を下ろすことができた。これが進めば、体制交代に進むことになるが、結局国家・社会における最上位のゲームルールである憲法改正まで至ることになるだろう」と懸念した。金教授は「汎保守陣営が結集し、今後3年間、国を安定的に導き、次にどうするかに備えなければ、保守政党の縮小は必然的だ」と述べた。
兪碩在(ユ・ソクチェ)記者、蔡珉基(チェ・ミンギ)記者