尹錫悦(ユン・ソクヨル)政府が10日の大統領就任式をもって正式に発足する。尹錫悦政府は前政権の失政に対する失望や政権交代への熱望によって誕生した。過去5年にわたり常識と限度を超えたネロナムブル(自分がやったらロマンス、他人がやったら不倫)の国政運営を正すよう求める国民の期待もそれだけ大きい。しかし今新政府が直面している政治・経済・安全保障の状況は「1998年にアジア通貨危機の中で発足した金大中(キム・デジュン)政権以後では最悪」との見方も決して言い過ぎとは言えないほどだ。
米国における急激な緊縮政策やウクライナ戦争などで世界経済は今全体的に沈み込む状況にある。物価、ドル、原油が同時に高くなる「新三高」も具体化してきた。国の負債は過去5年間で415兆ウォン(約42兆4000億円)も増加し、家計の負債も急増している。不動産市場も再びざわついている。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は肉声で「先制核攻撃」をちらつかせた。相次ぐミサイル挑発に続き今度は戦術核兵器を使った7回目の核実験も予想されている。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は退任式で「誰も揺るがすことのできない国をつくった」と自画自賛したが、実際は北朝鮮による核の脅威に直面し、負債の泥沼に落ち込み、その上経済の三つの波に揺らいでいるのが現実だ。巨大野党となった共に民主党は韓悳洙(ハン・ドクス)首相候補の承認と内閣発足を事実上妨害し、新政府の政策も一つ一つブレーキをかける態勢を示している。コロナによるソーシャルディスタンスは解除されたが、いつ変異ウイルスが出てもおかしくない。どこを見ても困難な問題ばかりだ。
尹錫悦政府は三高という困難な状況の中で物価高を抑制し、金融市場を安定させなければならない。規制緩和と民間企業中心の革新成長によって雇用を拡大することも大きな課題だ。民間に不動産を円滑に供給し、過度な税金を抑えると同時に住宅価格が再び高騰しないよう阻止することも必要だ。脱原発により崩壊した原発産業を復活させ、国のエネルギー計画ももう一度検討しなければならない。コロナによる被害の救済と雇用対策も急がれるが、国の屋台骨を守ることも重要だ。守れない公約と政策は批判を覚悟で国民に率直に理解を求めてほしい。枯渇の危機に直面した国民年金と健康保険、深刻な少子高齢化対策も追求しこれを実行に移さねばならない。どれも利害関係が複雑で困難な課題ばかりだ。
北朝鮮は韓国で新しい大統領が就任するたびに必ず核とミサイルによる挑発を行ってきた。核の脅威が現実となれば韓国だけの力ではこれを阻止できない。核は核でのみ防ぐことが可能だ。北朝鮮の核問題解決に向け米国と協力し実質的な方策を追求しなければならない。文在寅政権の5年間で形骸化した韓米同盟を立て直し、過去最悪の韓日関係、「三不」の低姿勢を続けてきた韓中関係など全てにおいて正常化が求められている。
これら全てをしっかりと進めていくには国民の意向を常に把握し、国民と疎通を続ける謙虚な姿勢が必要だ。国民の支持と同意なしにいかなる政策も推し進めるのは難しい。韓国大統領府だった青瓦台を離れ、執務室を竜山に移した目的はまさにその点にあるはずだ。尹大統領は分裂した国民を一つに統合する責任を負っている。先日の大統領選挙における0.73ポイント差、24万7000票という僅差の意味を常に忘れてはならない。自分たちの側ばかりを優先する国政ではいけない。ネロナムブルではなく公正と常識、原則を守る姿を国民は待ち望んでいる。
野党が横暴な態度を取り続け、足下をすくおうとする場合でも対話を継続し、説得する努力が必要だ。「わが道を行く」という傲慢(ごうまん)な政治は行くべき道を自らふさいでしまう。「野党の良識を持ち、合理的な考えを持つ議員たちと素晴らしい政治を行いたい」という約束をしっかりと実践できれば、野党も変わり国民も拍手を送るだろう。成果を焦れば失敗につながる。当選直後「常に疎通を続けメディアの前に立ちたい」と語っていた初心も忘れてはならない。「不通の帝王的大統領」という言葉を聞かないだけでも大きな成果になるはずだ。