「親日清算を叫ぶ南の政権、抗日パルチザンを称揚する北の政権と驚くほど似ている」(中)

【宋義達(ソン・ウィダル)が会った人】『新両班社会』の著者、人類学者のキム・ウンヒ博士

-これは民主社会の平等原則を破るものではないか?

 「米国は、参戦軍人を含む国家有功者に対する支援を、本人とその配偶者、未成年の子どもなど当代の核家族に限定している。6・25参戦軍人・警察官の遺族に対してソウル市が支給する毎月10万ウォン(現在のレートで約9700円。以下同じ)の生活支援金は、独立有功者の半分の水準にすぎない。韓国の独立有功者支援は、全ての戦死者を平等に追悼する現代国民国家の原則にも反する」

【写真】人類学者のキム・ウンヒ博士

■「『現代韓国社会の両班は誰なのか』を巡って対立」

-親日清算と関連して、文在寅政権は「独立運動精神」継承を、北朝鮮政権は「満州抗日パルチザン運動」を強調しているが、互い似ているように見える。

 「そうだ。南の運動圏政権と北の金正恩(キム・ジョンウン)政権は、統治の正統性を『抗日闘争』と『精神』に求めている点で、驚くほど類似している。『ろうそくデモは独立運動精神の継承』だと文大統領は語った。この宣言は、世襲の正当化のために満州抗日パルチザン運動を神聖視する北朝鮮の政権とそっくりだ。金日成(キム・イルソン)の家系を頂点とするパルチザンの子孫は北朝鮮社会の『最高特権層』で、金正恩の最も熱烈な支持集団だ」

 キム博士の言葉だ。

 「親日清算を巡って韓国社会が直面している対立の中心には『誰が道徳的に優れているか』という問いがある。この質問は『現代韓国社会の両班は誰か』の問題でもある。今、南北の政権は共通して『武装独立運動は絶対善であり、親日は絶対悪』と確信している」

■「個人の生命・財産を軽視する進歩勢力」

-こうした歴史観は近代的で妥当か?

 「戦争をする能力が到底足りない状況でも命を捨てて最後まで『抗日』、すなわち『義』を実践せよと要求し、称揚することは、日本軍国主義の神風特攻隊を称揚するのと同じことだ。現代の韓国人が20世紀初頭の抗日武装闘争の精神を継承すべきだと、私は考えない。進歩勢力は、民の生命や財産、人権を軽視した朝鮮王朝後期の斥和論、衛正斥邪派の前近代的歴史観のとりこになっている」

-彼らの論理だと、586運動圏は韓国社会の新たな「特権層」になる。

 「そうだ。これは、全ての市民は出自や経歴、評判に関係なく法の下に平等だという近代社会の法治主義を正面から無視するものだ。新特権層の登場は、近代市民の基本権である個人の平等と自由を破壊し、全体主義化を先導する。医師・経営者・エンジニアといった専門家らも運動圏政権の監督・監視の対象だ。彼らをコントロールしなければ、利己主義と貧富の格差拡大で不正義な社会になる、という理由からだ」

 キム博士はさらにこう語る。

 「近代市民社会の特徴は、反日民族主義が社会正義だと考える集団と、これに反対する集団が共存することだ。二つの集団のうちどちらが道徳的に優れていているかを測定する方法はない。互いに異なる考えを認めるのが正常な近代社会だ。しかし徳治をあがめ尊ぶ道徳社会は、思想の自由と思惟(しい)の共存を許容しない。そういう点でチョ・グク、尹美香問題は、韓国社会が政治と道徳を切り離さない両班社会へと戻っていくのか、さもなくば全ての市民が道徳的に平等な多元的市民社会へ前進するのか、という選択の課題を投げ掛けてくれた」

 キム博士は「両班体制という制度は、朝鮮王朝の滅亡とともに消えたが、社会の『指導層』は国民を『指導』できるほど道徳的に優れているべきだという文化的感情は、韓国社会にそのまま強固に生きている」と語った。

-1人当たりのGDP(国内総生産)が3万ドル(約350万円)という富国の韓国が、新両班社会になるということがあり得るだろうか?

 「文在寅政権が推進する『利益共有制』、『社会的企業づくり』、不動産『投機』を懲らしめる『賃貸借3法』などは、個人の利益を追求して富を蓄積する日常的な行為まで抑圧する反資本主義的政策だ。ここには、富の均等な分配を最優先視する儒教的経済観が深く反映されている」

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  • ▲2022年2月下旬に出版された『新両班社会』/写真=「思考の力」提供
  • 「親日清算を叫ぶ南の政権、抗日パルチザンを称揚する北の政権と驚くほど似ている」(中)

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