大韓民国憲法は国会に立法権を与えているが、国会がつくってはならない法律がある。今民主党が検察の捜査権を全てなくそうと国会に提出した刑事訴訟法・検察庁法改正案は立法権の正当な範囲を大きく逸脱するものだ。
民主党の強行法案には「検察の捜査権を全て奪い、警察に移管する」という条項だけでなく、「既に検察が捜査している既存事件まで全て警察に送致しなければならない」とする条項も含まれている。青瓦台(大統領府)による蔚山市長選挙介入、月城原発1号機を巡る経済性評価ねつ造、大庄洞開発を巡る不正など文在寅(ムン・ジェイン)政権が直接犯し、検察の捜査までもみ消している事件が警察の手に移れば、真相究明はさらに遅れることになる。不正に直接的、間接的に関与した疑惑がある文大統領と李在明(イ・ジェミョン)元京畿道知事を擁護するため、民主党が立法でクギを刺そうとしているのだ。特定の人物が刑事罰を受けないようにするため、国家の中枢捜査機関自体をなくそうという法律をつくれば、立法権の乱用を超え、法治の破壊につながる。
民主党の立法独走に司法も深い懸念を表明している。大法院傘下の法院行政処の金炯ドゥ(キム・ヒョンドゥ)次長は国会法制司法委員会に出席し、「こんな立法は見たことがない」と述べた。同処は民主党が提出した法案の13の条項に深刻な問題があるとする意見書を国会に提出し、「警察による不適正な捜査や過剰捜査を統制できなくなれば、裁判を通じた正義の実現に否定的な要素として作用する」と指摘した。特に検察が捜査している既存の事件まで警察に移管する条項は例を見ない規定であり、捜査の支障になるとした。「捜査の支障」こそ民主党の狙いだ。大韓弁護士協会の元会長10人も声明を出し、「政権交代直前に巨大与党が企図する検察捜査権剥奪は現政権勢力の自己防衛用の立法だと疑われるに十分だ」と批判した。
民主党内部からも批判が出ている。趙応天(チョ・ウンチョン)議員は所属議員に送った手紙で、「改正案の一部は違憲の余地があり、問題になる」と指摘した。朱哲鉉(チュ・チョルヒョン)議員も「国民的な下支えがなくとても心配だ」と述べた。民主党は所属議員172人全員の名義で検察捜査権剥奪法案を国会に提出し、党内での表決なしで拍手で通過させた。実際には反対している議員もいるはずだ。憲政史に永遠に残る汚点に名を残すべきではない。