「本当に公約通りやるのか? それなら中国は韓国に対して貿易報復をやりかねない。THAADのとき以上に」
中国のある元ジャーナリストは尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補が大統領選挙で当選した直後、自国の雰囲気をこのように伝えた。さらに別の中国の知人は記者に「尹次期大統領は親米で反女権主義者らしいが本当か」と質問してきた。北京では朴槿恵(パク・クンヘ)元大統領や文在寅(ムン・ジェイン)大統領当選当時のような甘い期待感は見いだせなかった。
中国国営メディアはまず警告を出し始めた。中国国営の環球時報は社説を通じて尹次期大統領に「在韓米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)三不の継承」を求めた。2017年に文大統領が訪中する2カ月前に「THAADを追加で配備しない」「米国のミサイル防衛(MD)システムに参加しない」「韓米日軍事同盟はしない」と表明したいわゆる「三不」のことだ。三不交渉の当事者でもあった南官杓(ナム・グァンピョ)元駐日大使ら文在寅政権の複数の関係者はこの三不について「政府の考えを説明したもので『約束』ではない」と強調してきた。これに対して環球時報は「三不は韓中相互尊重の結果」と主張している。
政府の立場はその時の安全保障環境によって当然変わることもあるし、また変わらねばならない。韓国が置かれた安全保障環境は2017年よりも悪化している。北朝鮮は追加の核実験をしないだけで、迎撃が困難な極超音速ミサイルや多弾頭弾道ミサイルの開発に力を入れている。新政府が本当にTHAADを追加配備するかは最終的に北朝鮮の挑発いかんに懸かっている。
韓国が置かれた安全保障上のリスクに無感覚な態度を示してきた中国の責任も大きい。今年に入って北朝鮮は弾道ミサイルを複数回発射したが、中国はこれを批判しなかった。逆に北朝鮮の安全保障上のリスクを強調し、制裁の解除まで訴えている。北朝鮮も近く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射する動きを示した。朴槿恵政府がTHAAD配備を最終的に決定したきっかけは、2016年1月に北朝鮮が行った4回目の核実験直後、朴大統領の電話を習主席が避けたことだった。韓国の若い世代の間で反中感情が高まる根本的な理由を「北朝鮮を擁護する中国の態度が原因」とする見方に同意する。
亜州大学米中政策研究所のキム・フンギュ所長は「中国との関係をどうするかが今後5年続く韓国の外交政策で最大の課題になるだろう」と予想した。尹次期大統領が公約として掲げた「THAADの追加配備」や「クアッドへの加入検討」はメガトン級のテーマであり、綿密に検討した上で決定しなければならない。その過程で中国には韓国の原則を明確かつ一貫して伝えなければならない。
尹次期大統領の側近である権寧世(クォン・ヨンセ)議員はTHAAD配備直前に駐中韓国大使を務めた知中派だ。権議員は2020年にあるメディアとのインタビューで「THAAD配備は避けられない」とする一方「韓中間で行われた協議の内容は残念に思った」と当時を振り返った。「中国が北朝鮮の核とミサイルに対して圧力を加えてくれるなら、(韓国は)米国と交渉しTHAAD配備を延期させることができる。このような形の協議をすべきだった」とも語った。同じ問題でも外交的にどう取り扱うかによって結果は変わってくる。野党との意思疎通も重要だ。中国は韓国世論の分裂を執拗(しつよう)に利用してくるだろう。THAAD事態は痛い教訓だ。
北京=パク・スチャン特派員