ところでなぜ韓国はクアッドに参加しなかったのだろうか。これに先立ち筆者は1月26日に米誌フォーリン・ポリシーへの寄稿で「バイデン政権の複数の関係者が昨年、クアッドの最初の首脳会議前に韓国に参加を打診したが拒否された」と明らかにした。これに関する文在寅政権の説明は「米国は韓国にクアッドへの参加を要請したことはない」というものだった。筆者のこの寄稿について韓国メディアが韓国外交部(省に相当)に事実関係の確認を求めたところ、外交部報道官は「事実ではない。韓国はクアッド4カ国のどこからも直接の参加要請を受けていない」と説明した。青瓦台(韓国大統領府)の関係者も「政府の立場に変わりはない。クアッド参加要請を公式に受けたことはない」と明言した。
しかし文在寅政権のこれら一連の発言は真実を隠そうとするものだ。論理的に考えてみよう。第一に米国がアジアの主要民主主義国家による協力体を構成するに当たり、最も近い軍事同盟国の韓国を含まないことはおかしくないだろうか。米国が韓国をクアッドから排除する理由はない。第二に韓国はコロナワクチンの生産能力やメモリーチップ生産国として世界的な役割を果たしている。これらの点を考慮すると韓国はクアッドにとって理想的な国だ。それなのにバイデン大統領がクアッドからあえて韓国を排除するだろうか。第三にバイデン大統領が本当に韓国をクアッドに参加させようとしなかったのであれば、それは韓国に対する侮辱と変わらないため、韓国政府はこれに対する失望や怒り、当惑を表明したはずだ。ところが韓国政府は「クアッドへの参加を求める『正式な招待』はなかった」と言うだけで、感情も一切出さなかった。第四に文在寅政権に問うべき質問は「米国が招待状を送ったか」ではなく「文在寅政権は本当にクアッドへの参加を望んだのか」であるべきだ。言い換えれば文在寅政権はなぜクアッドに参加したいとバイデン大統領に要請しなかったのか、この点を問いただすべきということだ。
答えはすでに知られている通りだ。米国が韓国をクアッドから排除しなかったのは間違いない。実際にバイデン政権は早くから韓国のクアッド参加を念頭に文在寅政権の意向を打診した。しかし文在寅政権の反応はあいまいなもので、逆に米国に対し「どうかわれわれに参加を求めないでくれ」と求めた。クアッドにはあえて参加しないということだ。韓国のクアッド不参加はバイデン大統領ではなく文大統領の決定であり、韓国国民の一般的な感情とは懸け離れているということだ。
ビクター・チャ米戦略国際問題研究所(CSIS)韓国部長